その他×ツナ 1

□おとといきやがれ
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―――それは、アレか?


いわゆる、世間で言うところの"娘さんとお付き合いさせてください"というやつか?

もしくは、"娘さんをボクにください"だろうが、山本と綱吉がそんな深い仲でないことを、リボーンが知らぬはずがない。

また突拍子もないこと言いやがると、リボーンはおかしそうに笑い声を立てる。

「ハッ、律儀にお伺いか?つくづく日本人だな、お前は」

そうして、「そのバカ正直さは嫌いじゃねえぞ」と嗤うリボーンは、手塩にかけて育て上げた生徒の所有権を否定しない。
綱吉がボスに就任し、家庭教師としての役目を終えた今でも、リボーンは綱吉の一番の理解者であり、庇護者であり、保護者であることに変わりはないからだ。

「だってよ。どのみち通る道だろ?先に許可もらった方がいいじゃねーか」

「どのみち・・・か。まったく、随分強気だな。もっとも・・――アイツはそう簡単に堕ちねぇぞ」

唇に弧を描き、うっとりするような美声で忠告する。
長い長い年月をかけて難攻不落の天然小悪魔を創り上げたこの男こそ、本物の悪魔である。

その愛らしい外見と、マフィアの世界に染まることなく心優しく純粋なままの内面に引き寄せられる男は数知れず。
数々の求愛を一向に理解できない綱吉に、かわされ、振り回され、みごと玉砕していく有象無象の男共を、誰より胸のすく思いで愉しんで見ているのも、この男だ。

その最たる例の1人である山本は、一瞬苦虫をかみつぶしたような顔をしてから、「だよなー」といってがしがし頭を掻く。

「そりゃあ一筋縄でいかねーのは承知だぜ?ダテに10年も“親友”やってねえって」

「ふん?―――なら好きにしやがれ。俺はもうアイツの家庭教師は降りてんだ。あとはガキ同士勝手にやってろ」

帽子をかぶりなおし、付き合っていられないとでも言うようにリボーンは溜息を返す。
誰よりも近くで綱吉を独占しながら、やれるものならやってみろと言わんばかりに傍観者を決め込むセリフに、山本がピクリと反応する。

「へぇ?その割には、ちょくちょくツナんトコだけには顔出してるみてえだけど?」

若干トーンの落ちた声に、チラ、とリボーンが目線を上げる。
山本の瞳の奥に嫉妬の炎が揺らめくのを、リボーンは見逃さない。
珍しく余裕のない様子に、リボーンは片眉を上げた。

「そう妬くなよ。あんまり放っておくとツナが寂しがるんだ。ボスになったところで、アイツはまだまだ甘ったれの半人前だからな」

ことさら煽るようにわざとらしく言ってやるのは、半分以上面白がっているからだ。

磨きあげられた自分の最高傑作に魅せられる人間は数え切れないが、ここまで真っ向から自分に挑んでくるのは、この男くらいだろう。
やはり、自らの目に狂いはなかったと、リボーンは満足気に口元を緩める。

10年経ち、マフィアの世界にどっぷりつかった今もなお変わらない山本の実直さが、リボーンの気に入っていた。

「・・・ちぇ、余裕かよ。俺、結構本気なんだけどなー」

解っているのかいないのか、「あーあ」と天井を仰いで山本がぼやく。

綱吉とリボーンがそうであるように、山本とリボーンの間にもまた、確固たる上下関係と信頼関係が存在しているのだ。
だからこそ、筋を通したいという山本の気持ちは、雄弁に彼の本気を語っている。



はぐらかすこともできたが。

何故か、ほんの気まぐれに、その気概に応えてやってもいいという気になった。



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