行方知れず

□脆く儚く
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「大体なァ、俺は何で央がここにいるのかが疑問なんだよ」

『だから銀時君、それはさっき何度も説明して』

「うるせーてめぇには関係ねーだろうが。とっとと帰りやがれクソ天パ」

「天パで何が悪いんだよマヨラーよりマシだろうが」

「マヨを馬鹿にしてんじゃねエエエエ!」

『……』




 ――ここは、真選組屯所の目の前。

 私の隣には銀時君。そして彼の前にいるのはトシ君。

 先ほどからくだらない言い合いをしている彼ら。

 何度止めようとしても、その度に声を遮られ、また言い合いをする。


 どうやらこの喧嘩、私ではどうにもならないらしい。

 何も出来なくなった私は、困り果て黙り込んでしまった。




 銀時君は、あの爆発音があってすぐにこちらに来た。

 連れ戻しに来たぞおおお、何て叫んで乗り込んで来たくせに……これだ。

 うーん、銀時君何しに来たの。




「何、拉致ですか? 監禁ですか? 監禁プレイですかァ?」

「誰がいつ監禁したんだよコラ」




 睨み合って、互いに怒りマークを浮かべながら罵倒を繰り返す。

 この2人、相当仲が悪いようだ。

 前から思ってはいたけれど、厄介だなぁ。





「電話があった時からおかしいとは思ってたんだよ。爆発音が聞こえた時は心臓出るかと思った」

『ま、まぁまぁ銀時君。そろそろ帰ろうよ』

「そりゃお前がビビっただけだろ。大きな音でさえもビビるお前の弱さを違う風に言ってるだけだろ」

「俺がビビる訳ねーだろバカかお前。つーかお前の方がビビってたんじゃね?」

「バッカお前俺がビビるとか星が崩壊してもありえねぇよ」

「はっ、俺は宇宙が爆発してもビビらねーからマジで。ありえねーからいや本当」




 言い争いから話が逸れ、押し付け合いへと変わった彼らの会話。

 凄くどうでも良い事で押し付け合っているなぁ2人とも。

 案外性格が似ているのだろうか。


 迎えに来てくれたのは嬉しいけれど、早く帰りたいな。




『早く終わらせないと帰っちゃうよ』



 そう吐き捨てるように言った。

 が、2人には聞こえてなかったらしく、まだ言い合いを続けている。

 どうも2人は意地の張り合いになると周りの音も聞こえなくなってしまうみたいだ。


 ……じゃあ、帰ろうっと。

 私は2人に背を向け、ため息をつきながら足を進めた。






「「……ん?」」



 私がいなくなった事に気付いたのは、それから30分後の事だったらしい。






脆く儚く






『迎えに来てもらったのに置いてきたのはちょっとアレだったかなぁ……』




 うーん、と唸りながら、私は帰り道をゆっくり歩いていた。

 迎えに来てもらったのに、置いていくというのは、さすがに失礼だっただろうか。

 例え銀時君でも怒るだろうなぁ。

 そんな事を考え、買った物が入っているビニール袋を揺らす。


 近藤さんが、私が倒れた際に一緒に持ってきてくれたらしい買い物袋。

 気絶した私も背負ってたらしいが……重くなかっただろうが。

 迷惑かけちゃったな。




『早めに帰って、ご飯作らなきゃ』




 少し歩む速度を速め、そそくさと万事屋へ向かう。

 神楽ちゃんも新八君も待ってるだろうし――。

 そう思い、ふと空を見上げると。





『!?』



 そこには、何と。

 私が同居させてもらっている家、万事屋に

 何故かは分からないが、大きな船のような物が突き刺さっていた。

 白い煙も上がっている。

 周りでは、野次馬がざわざわと声をあげて騒ぎ立てていた。


 中には神楽ちゃんや新八君がいるかもしれないというのに!

 一体どうしてこんな事になったかは分からない。

 だが、今は彼らのもとに向かうのが鮮明だろう。




『ちょっ、すいません! 通してください!』




 買い物袋を抱え、野次馬達を退ける。

 私が来た事によって、ざわめきが少し大きくなった気がした。


 というか、この江戸は船が家に突き刺さる事などあるのか。

 普通はないと思うのだが。

 やはり、ここの江戸はどこかがおかしい。



 この辺りに海はない。

 なら、船がここにある可能性など少ないはずだ。


 どうしてなのだろう。

 分からない、分からない。






 急いで階段を駆け上がり、2階へ向かう。

 途中、袋から何かが出たような音がしたが、気にしていられなかった。




『神楽ちゃん! 新八君!』




 扉を勢いよく開け、慌ててローファーを脱ぎ捨てる。

 買い物袋を玄関に置き、私はリビングと廊下をつなぐ扉を開けた。

 中が悲惨になっていない事を信じて。





「あっはははは! いやーすまんの、またやってしまった!」

「ちょっといい加減にしてくださいよ辰馬さん! 死ぬかと思いましたよ!」






 その中の様子は、私の想像とは全く違った。







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