行方知れず

□こんな僕等を
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私のせいだ


私のせいだ



そうやって自分を責めたって私は何も出来やしない


状況は変わりゃしない



分かっているんだ


分かっているんだ





でも



こうやって人が死んだのに



涙を流す事が出来ない自分が


涙を殺している自分が





悔しくてならないよ








こんな僕等を








「可哀相に・・・」

「道場は跡継ぎが継いだらしいけれど・・・門下生があんなに少ないんじゃやってけないわよねぇ」

「女の子もいるみたいだし・・・良いのかしら」

「あの子達の事だ、俺達には関係ないさ」




「ご冥福をお祈りいたします」

「ありがとうございます」

『ありがとうございます』





喪服を着た人達が挨拶に来てくれる。

近藤さんの手には骨が入った壷がある。


私は一緒に頭を下げた。

悔しそうな顔をしている近藤さんと、一緒に。

泣いている近藤さんの隣で。

私はただ笑みをこぼしたまま、頭を下げた。



関係ない。

確かにそうだ。


人間はその一言で関係を全て断ち切ってしまう。

自分に面倒事が回って来ないように。

自分達に被害が及ばないように。



人間は自由だ。

人が死のうと関係ない。







「やーいやーい!あの怒鳴り屋のジジイが死んだぞー!」

「ざまーみろ総悟!そーちゃんそーちゃん!」


「止めろ!師匠をそういう風に言うな!」






総悟君が泣きそうになりながら必死に近所の子供達を追いかけている。



子供はいつだって自由だ。

どんな発言をしても許されると思っている。

大人がどんなものかを分かっていない。


人間は自由だ。

人が死のうと関係ない。






どん、と私の足元に重みが来た。

近所の子供が私の足にぶつかったのだ。


いや、ぶつかって来た、か。

私は子供を見下ろす。




その子供はげへへと笑いながらこう言って来た。







「お前あのジジイの孫なんだろー?へへ、ジジイ死んじゃったな!」

『・・・うん、死んじゃったね』

「悔しくねーのかよ?殺されたんだぜ?」

『悔しいよ』

「あ、分かった!お前悲しくないんだろ!ジジイが死んでよかったと思ってるんだろ?



やった!お前も仲間じゃん!俺達の!」






はははと笑う子供。

私は子供を見下ろしたまま笑みを見せた。


死んで良かった?

仲間?

悔しい?

殺された?



どうして


どうしてそんな事が言えるの?







『世の中言って良い事と悪い事があるんじゃないの?』

「へ・・・」

『誰もあなた達の仲間になんかなりたくない。死んで良かったって思ってるはずないじゃない。何言っているの?


死んで良い人間がこの世にいるの?死んで良かったってあなた達が言えるの?何も出来ないくせにそんな事言わないでよ』

「あ・・・う・・・」



『悲しいよ、死ぬ程。死にたくなる位悲しいよ。でもそれで師匠が生き返るの?悲しんだら生き返ってくれるの?

そんな上っ面だけの感情ならいらない。関係ないだけで片付けられるなら何もいらない。



人の死を味わった事のない子供が、人の死を語らないでよ』



「うわああぁぁぁぁぁん!」







近所の子供は、他の子供達と共に逃げ帰っていった。


子供を泣かせてしまった。

申し訳ないと思う。



子供は好きだ。

子供は可愛くて、時々生意気だけど素直だ。

でもごめんね。

こんな時に子供を愛でられる程、私は出来た人間じゃないの。



悲しかった。

こんな、自分が。







「・・・央さんン・・・」

『総悟君、泣いても良いんだよ。悲しい時はいっぱい泣きな?』

「うぅ・・・うわあぁぁぁぁぁぁぁあぁッ!」





総悟君が私に泣きつく。

私はしゃがみこみ、総悟君を抱きしめてあげた。


その悲しみがなくなるくらい

強く、強く。











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