行方知れず
□戦う事しか
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強くなりたいと、そう願う
――私の願いは何も叶わないと知っているはずなのに
前の私よりは、強くなっているはずだと言い聞かせる
――所詮その程度では誰かを守る事は出来ないのに
私は、満足しているか?
――否、満足などしていない
――守れない強さなど、ただの暴力だもの
17:戦う事しか
「ん?」
皆が寝静まりかえった、道場。
大人として恥ずかしいが・・・突然厠に行きたくなった俺は目を覚ました。
夏だからであろう、辺りは湿気で包まれ、気温も高い。
この季節はほとんどの部屋が風通しを良くする為に襖などを開けておくのだ。
だから、部屋の中が丸見えな訳だが・・・。
「央ちゃんがいないな」
俺の部屋に向かう途中に、央ちゃんの部屋がある。
もちろん彼女が寝る時、障子は閉まっている。
だが今は、風通しを良くする為か開いていた。
部屋の中に央ちゃんの姿はない。
どこに行ったのだろうか。
厠?
いや、先ほど俺が行った。
すれ違いもしなかったから、恐らくそれはない。
では、一体どこに・・・。
こんな夜中に、外に出歩いているのならば危ない。
今は彼女がここにいるかどうかを確認しなければいけないな。
俺は自然と足を進めた。
*
『・・・。・・・』
見つけた。
夜、灯りもつけず、月の光だけが自分達を照らす。
俺がいるのは、道場。
彼女の部屋から少し行った所にそこはある。
だが、正直こんな時間に道場に行く理由など何もないはずだ。
そんな中、彼女は1人真剣な表情で竹刀を振っていた。
ただ前を見つめたまま、黙り込んで。
彼女は今まで手を痛めていたから、鍛錬には参加していなかったはずだ。
手を痛めた原因は、総悟と一緒に買い物に行った時に人を殴ったからだそう。
温厚な彼女が人を殴るなど、信じられなかった。
しかも、彼女にしてはその拳の傷・・・痣は大きかった。
普通・・・いや、央ちゃんの力ではあんなに大きな痣は出来ないはず。
まるで別の人間が、彼女の身体の中に入り込み、操ったかのように。
彼女の身体だけが傷つくように仕込んだかのような。
・・・いくら何でもそれは考えすぎだろうか。
「こんな夜中に一人で何をしているんだ?」
『!』
一生懸命練習をするのは良いが、これ以上身体を壊してはなるまい。
俺は静かにため息をつきながら、彼女に声をかけた。
すると、彼女は俺の存在に気付き、勢い良く振り返る。
その表情は、驚き。
まぁバレるとは思わなかったんだろうな。
『あ・・・近藤さんでしたか』
「無理しちゃ駄目だろう?まだ手の痣が治りきっていないんだ。痛みが治まるまで竹刀は握るなって師匠にも言われたんだし」
『すいません』
案外素直に謝る央ちゃん。
でも・・・とかだって・・・とか言いそうだったが。
まぁ言われないほうがこちら的にも安心できる。
竹刀を下ろして苦笑いをこぼす彼女に、俺は再び声をかけた。
「どうしてこんな夜中に道場に来たんだ?」
『あ、ちょっと。修行ー!って意気込んじゃって』
「ははは、そんな事したってその手じゃまだ修行の成果は身に付かんよー」
『そうですかね、ふふ』
手を口に当ててくすくすと笑う彼女の、右手。
そこには包帯が巻いてあった。
まだ痣が引いていないという証拠でもあった。
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