行方知れず

□己を犠牲に
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「うわあぁぁん央さあぁぁん!」

『えっ、うわっ何どうした、ちょっうわぁぁぁ!』






ドシャーン




総悟君の大声が聞こえたかと思ったら。

いきなり背中に飛びつかれ、洗濯籠を持っていた私はグラリとバランスを崩す。

そしてそのまま、総悟君と共に地面に倒れこんでしまった。


い、痛い・・・。




『いたた・・・急にどうしたの総悟君』


「首飾りが作れない!」




今日の物語は、総悟君のこの一言から始まるのです。











『総悟君、良い?首飾りはね、ちゃんと首飾りの原型である紐を用意しなきゃいけないの』

「紐!」

『うん、それは糸かな』




総悟君の部屋で静かに苦笑いをこぼす私。

首飾りが作れない・・・確かに、その状態じゃ作れるはずがないだろう。



とりあえず洗濯物を全て干し終わり、やる事全部やった私は彼と一緒に総悟君の部屋に来た。


彼の部屋に来てみれば、首飾りを作ろうとした痕跡が残っている。

部屋に散らばっていたのは、貝殻や綺麗な石などオシャレな物ばかり。

しかしそれをうまく活用できなかったようだ。


足元に転がっていた貝殻をひょいっと拾ってみる。

・・・貝殻に開けた穴、大きすぎるよねこれ・・・。

その穴は、もう少しで貝殻全てを飲み込んでしまいそうなほど大きかった。






「首飾りを作るには穴をあける必要があるって近藤さんが言ってたんでさァ」

『こんなに大きな穴をあける必要はないと思うよ』

「だって大きな穴をあけた方が女の人は喜ぶって近藤さんが」

『・・・今度から近藤さんじゃなくて私とかトシ君とか師匠に言いなさいね』

「えー」





近藤さん、貴方子供に何て事言ってんですか。

総悟君は理解してないからいいけれども。

というか女の人が全員そうとは限らないと思う。


じゃない。






『・・・仕方がない、首飾りの材料買ってこようか』

「何でですかィ?ここにもうあるのに」

『紐とか買わなきゃ。それに、貝殻だけじゃなく色々な物をつけたいでしょう?』




私の言葉に、総悟君はぱっと目を輝かせる。




「うん!」




そして、大きく首を縦に振った。








++++++++++++++++++






『へぇ・・・ミツバちゃんの為に首飾りを?』




とある町の、少し大きなお店。

そこに今、私達はいた。

私と総悟君は手を繋いでお店の中の商品を見ている。


総悟君は私を見上げながら、うん!と頷いた。





「姉上は、いっつも僕の為に働いてるんでさァ。ずっと苦労してるんです。だから・・・

少しでも、姉上の力になれたらって思いやしてねィ」




えへへと照れくさそうに笑う総悟君。

可愛いな、何て思ってしまって。


私は慌てて頷き、『そっか、偉いね』と言った。





『ミツバちゃん、絶対喜ぶよ』




ミツバちゃんはこんな優しい弟を持って、きっと幸せなんだろうな。

そう、思った。



ミツバちゃん達の家には両親がいない。

それは、会った当時に分かった事だった。

でも・・・やっぱり、同い年なのに両親がいないなんて。


私はこの江戸という時代に来てしまって、うじうじしていたけれど。

そんな事はもう止めた。


ミツバちゃんを見てると、止めたくなった。

どうせ帰る方法など見つかる。




見つからなかったら・・・なんて、考えたくない。

でも、明るく前を向いて、ゆっくり時間をかけていこうって。


そう、思うようになったのだ。










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