行方知れず

□選択肢など
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私がこの道場にやってきてから、結構時が経っている。

といっても、まだ数週間しか経っていないのだが。


この道場には今、師匠と近藤さん、私、総悟君、トシ君がいる。


門下生は3人というところか。



とにかく、私が一番最初に来た時よりも大分賑やかになった。


総悟君とトシ君は・・・お互い気に食わないのか、よく喧嘩をする。

それを制裁しようとした近藤さんさえ巻き込んじゃう。





でも、そんな彼等が来てからこの道場は騒がしくなった。

その騒がしさが、嬉しく思う。


近藤さんも満更でもなさそうだし。





ミツバちゃんはというと、何だかトシ君に気があるみたいだ。


時々ちょっと照れながら彼と話をしているのを見る。

とても微笑ましい。


何だか母親の目線で見てしまう。




師匠は相変わらず厳しいけれど、優しい時もある。


何だか、気難しいおじいちゃんみたい。



そんな所が、私は良いなって思う。






ほら、今日もそんな騒がしい日常が始まろうとしている。













「央ちゃん、海苔はどこにある?」

『あっ、そこの棚の二番目の引き出しの中にあると思う』

「あ、あったわ。ありがとう」





私とミツバちゃんは今、台所に立っている。

海苔やら塩やらご飯やらを用意して、お皿を用意して。


材料から見て分かるとおり、私達はおむすびを作ろうとしている。


最近、おむすびばっかりで申し訳ないけれども。




何で2人で作る事になったかというと。



元々、ミツバちゃんが毎回作ってきてくれたのだが

今日は私も一緒に手伝いたいと思っていた。

いや、前から思ってはいたのだけれど、タイミングが毎回悪くて。


今日はたまたま稽古が終わった時に来たから、一緒に作る事にしたのだ。




今はお昼前。

ちょうど良い時間帯に、皆におむすびを出せそうだ。







「こうやって一緒に作るのは初めてね」

『そうだね。ふふ、私下手だから頑張らなくちゃ』

「あら、そんな事ないわ。ほら凄い上手いじゃない」

『そうかな』




笑いあいながらどんどんおむすびを握っていく私達。


でもやっぱり慣れているからだろう、ミツバちゃんの方がスピードが速かった。

私は綺麗に作ろうとしてちょっと遅れてしまう。

ミツバちゃんは綺麗かつ速いという完璧なおむすび職人。


・・・職人、ではないか。






『これじゃ、どのおむすびが誰が握ったものか分かっちゃうね』

「ふふ、だって握っている人が違うもの。形が違うのは当たり前よ」

『ほら〜、そうやって私を甘やかすんだから』





ミツバちゃんは本当に優しい。

辛党だけれど。


でも、彼女は私にとってとても良い友人となっていた。



最初は、私の方が遠慮していた。


初対面であんな変な事言って、嫌われてると思ってた。

でもそんな事はなかったのだ。


彼女は気にしている素振りもしないで、私に笑いかけてくれる。

嬉しかった。

だから、もう遠慮はなし。


互いに色々言い合えるほど、今では仲良し。

この短期間でこんなに仲良くなったのは初めてだ。






「そういえば、央ちゃんがこの道場に来たのっていつだったかしら」

『私?うーん・・・多分、1ヶ月ちょっと前かな』




おむすびを握った、ご飯粒だらけの手の指を折る。

ひいふうみい・・・もうそんなに時間が経ったのか。

そう思うと、長かったんだなぁと思う。


短く感じるけれど。






「結構経ってるのね。私とそーちゃんが来たのは3週間前でしょう?」


『そうだね・・・で、トシ君が来たのがつい最近だから・・・』

「何だかとんとん拍子で人が来てるわね」


『うん、何か凄いね』

「近藤さんが、"央ちゃんは招き猫の分身かもしれんな"って言っていたわ」

『えぇ?そんな事ないよ、多分近藤さん自身が招き猫なんじゃない?』

「まぁ!ふふ、言えてるわね」






私が招き猫だなんて、ありえない。

まぁ確かに、私が来てから人が来るようになったのかもしれないけれど・・・。


結局の所近藤さんが連れてきてるじゃない。


私は苦笑いをこぼした。













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