行方知れず

□現実と異世界
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『ん・・・』







目が覚めたら、そこは私の部屋だった。


私のベッドがそこにあって、投げ捨てられた鞄があって。

自分の机、重なっている雑誌。

見慣れた壁に見慣れた床、見慣れたカーテン。


私は帰ってきた。











・・・何て、事はなかった。




私の部屋、じゃない。

私の家でもない。

もちろん、私が知っている場所じゃない。


目に入った天井は、木だった。

私の家の天井は木じゃない。



ここ、どこだろう。



私は布団の中に入っていた。

そして、腕などに包帯がしてある。


一体誰が・・・?






「おっ、目を覚ましたか!」





横から声がして、私は顔を横に向けた。

男の人の声・・・誰だろう。




そこにいたのは、胡坐をかいて座っている見知らぬ男性。

もちろん知り合いではない。

私は静かに首を傾げた。



とりあえず起きようと体を動かす。


すると、その男の人に止められた。






「無理はしない方が良い。まだ横になって」





その言葉に私は静かに従う。

知らない人だからこそ、逆らう事ができなかった。

悪い人ではなさそうだ。


私は布団の中に入りながらも、口を開く。






『・・・あの、私どうしたんでしょう』

「あぁ。君は俺の道場に倒れていたんだよ。



傷やら怪我やらしていたから、ここに運んで来たんだ」






・・・おかしいな。


私は帰るはずじゃなかったのか。

何か、帰れるような感じだったのだけれど・・・。




彼の服は着物。

それに袴を着ていて・・・うん。





帰れてないようだ。

どうやら私はまだ江戸時代にいるみたい。


だって、現代に着物を着たままの人なんかいないもの。







『すいません、ご迷惑をお掛けしまして』

「いや、良いんだ。あのまま放って置く事はできないからな」





にかっと笑うその人。

やっぱり悪い人ではない。むしろ優しい人だ。


私はありがとうございます、とお礼を言った。




でも、どうして道場なんかに倒れていたのだろう。

彼ら・・・銀時君達と別れてからの記憶がない。


どうなっている?


疑問を抱きながら、私は体を動かした。






「それにしても、君はどうして倒れていたんだ?こんな誰もいない道場に」

『えっ、あ・・・それは』





聞きたいのは私のほうだ。

少し戸惑いながら口をつぐむ。




すると、その人は少しきょとんとした後


はははっ、と豪快に笑った。






『え?』

「言いにくいなら無理に言わなくても良いぞ。女の子には秘密がいっぱいあるしな」


『あ・・・良いんですか?』

「何、この道場に人が来たってだけでもありがたいさ」





腕を組みながらそう言う彼。

そんな理由で言わなくても良いだなんて・・・もしかして

この人究極に良い人なんじゃないだろうか。



そういえば、さっきから誰もいないとか人が来ただけでもとか言っているけれど・・・。

人、いないのだろうか。


道場なのに?






『あの・・・ここの道場って誰もいないんですか?門下生とか』

「ん?あぁ、田舎の芋道場だしな〜。ほとんど人が来ないし、門下生もおらんのだよ」


『そうですか。何だか大変そうですね・・・』

「本当だよ、何せ頑固なジジィに怒鳴られてばっかでさ〜。見てコレ、豆だらけ」

『わっ、痛そう』












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