行方知れず

□命の華を
1ページ/7ページ








「今日は何して遊ぶの?」

「僕鬼ごっこが良い!」

『ふふ、じゃあ今日は鬼ごっこで遊ぼうか』




今日も寺子屋は平和です。









爽やかな風が吹く晴れた日。

いつも通り、私は子供達と一緒に遊んでいた。


最近はずっと子供達と遊んでいて、毎日疲れているからぐっすり寝れている。

最初のほうは、やっぱり慣れないからあまり寝れなかったけど。

もうその心配も無い。




もちろん、ちゃんと仕事はしている。

剣術が終わった後におむすびを渡したりとか。


少しだけだが、ここの文字も大分読めるようになってきた。



相変わらず物事を教えるのは下手くそだけれど、それでも以前より上手くなってきた。









「央先生ー!松陽先生が呼んでるよ!」




突然、女の子が私の名前を呼んだ。

鬼ごっこをしている最中だった私は動きを止め、彼女の方を向く。

松陽さんが呼んでいる・・・とは。


何か用でもあるのだろうか。






『え、本当?ごめんね皆、ちょっと遊んでて』

「「「えー」」」





子供達のブーイングに苦笑いをしつつ、私は鬼ごっこから抜ける。


そしてローファーを脱ぎ、早歩きで松陽さんの部屋に向かった。

本当、何の用なんだろう・・・。



先ほど遊んでいた庭と、松陽さんの部屋はあんまり離れていない。

子供達のはしゃぐ声がここからでも聞こえるくらいだ。


だからすぐについてしまった。






『松陽さん?央ですけど』

「あぁ、央さんですか。どうぞ入ってください」






中から先生の落ち着いた声が聞こえる。

その了承を受け、私は足を曲げて正座し、すっと襖を開けた。

ここに来て随分マナーを学んだ。


もちろん松陽さんは仕事中なためうるさくはできない。

静かに、そっと開く。





そこには、紙に筆を走らせる松陽さんと


ちょこんと座る晋助君がいた。







『あれ、晋助君』

「央」




晋助君が少し不安な表情で私を見る。

どうしたのだろう?

何かあったのだろうか。


私の疑問を打ち消すように、松陽さんが口を開いた。





「央さん、あなたに少し頼みたい事があるのです」

『頼みたい事・・・?』

「えぇ」




松陽さんが私に頼み事をするなんて、珍しい。

いつもは私に物事を教えてくれたりするだけだから、ちょっと驚いた。






「実は、私今日の晩に外出して明日の朝まで帰って来ないんですね」

『あ、そうなんですか?』

「はい。それで、あなたに晋助の面倒を見てもらいたいんです」





彼の言葉に、私は彼の隣に居る晋助君を見た。


面倒を見る・・・とは?

いつも見ている気がするが、何か特別な事があるのだろうか。


私は首をかしげた。






「ふふ、実はこの子・・・夜が酷く苦手でね。寝る時に私がいつもお話をしているんですよ」

「に、苦手じゃない」




微笑みをこぼしながら言う松陽さんに、晋助君が小さく呟く。

なるほど。

今日の夜は松陽さんがいないから、代わりに私が。という事か。






『じゃあ晋助君が寝るまで私がお話をすれば良いんですね?』

「はい、できればお願いしたいですね」

『もちろん良いですよ。大事な役目ですしね』






私も笑った。




晋助君を見れば、彼は縮こまって顔を赤らめている。


恥ずかしいみたい。

何だか可愛いなって思った。



今晩は良い夢が見れるようにしなければ。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ