へい がーる!

□32
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 雲一つない晴れきったある日。

 席から見える青空を見上げながら、私ははぁ……とため息をついた。


 前回の遅刻により、担任の片倉先生から次遅刻したら反省文5枚、と死の宣告を受けた私。

 これ以上片倉先生を怒らせたら学校が地獄と化す、と周りにも忠告を受け、登校時間を早めた。

 まだ誰も学校に入っていないような状況で1人、教室の中でぽつんと席についている。

 頬杖をつきながら、再びため息を一つこぼした。



 いくら不可抗力とはいえ、遅刻は遅刻。それに、午後から登校してきたんじゃあ、怒られるのも当たり前だ。

 だが、遅刻の回数は少ない方だ。今回の場合だって変な事故に遭ったせいだっていうのに。

 まあ、遅刻するよりかは早めに登校して一人の時間を楽しむ方が良いだろう。

 携帯を取り出し、さて何のゲームをやろうかなと待ち受け画面を開いた時だった。

 ……遠くから、ドドドドと地面が揺れるような音が近づいてくる。

 1階から2階、2階から3階……そして気付いた。アッこれ早々に一人の時間終わるヤツや、と。


 そして、予想通り、この静寂はすぐに終わりを告げたのである。




ダッパッ風舞殿オオオオアアアアアアッッ!!!!

おちけつ

「ケツは落ちてないでござる! きちんとここについているぞ!!」




 ケツが落ちる事なんか死んでもねーよ。何言ってんだこの熱血漢は。






  32:靴箱には恋文





「いや、そのような事を言っている場合ではッッ! 風舞殿、これを見てくだされ!!」



 ドアをズバーンッとぶち壊しそうな勢いで開けた彼、真田君。

 彼はこの時期に似合わない大量の汗を額に浮かべて、息を上げながら何かを掲げた。

 おい、私の一人の時間を壊した事に対して謝罪は? と問えば無いッッ!! と元気よく返された。

 ちょっと誰かストッキング持ってきて。この人に被せるから。




「このような文が、下駄箱の中に入っていたのだ!!」



 私の席までズカズカと歩いてきたかと思えば、まるでメンコをするかのようにそれを机に叩き落とす彼。

 もう少し丁寧に置いてくれない? 机ちゃん泣いてるんだけど? どうしてくれんの?

 静寂を壊され不機嫌になりつつも、真田君が叩きつけた物に視線を向ける。

 可愛らしい、和紙の薄紅色の封筒。真ん中に同じ和紙素材のハートマークのシールが貼り付けてあった。

 丁寧な字で、真田幸村君へと書かれている。




「これはもしや……」

「ここここ、恋文なのだ! 某の下駄箱に、恋文が!!」

いつの時代の人だよお前は。ラブレターね、ラブレター」

「らぶれたぁが!!」




 真田君がここまで動揺している所を見ると、ラブレターを貰うのは初めてらしい。

 嘘でしょ、と言いたい所なのだが……真田君は女の子が苦手で、話しかける事もなかなか出来ない。

 え? じゃあ何で私とは話せてるかって? サテ、ナンデデショウカネー。

 そのラブレターを手に取り裏返してみると、差出人がしっかり書かれていた。

 ああ、この子は知っている。ちょくちょくこのクラスにいる友人に会いに来てる子だ。

 大人しめで、清楚で真面目そうな、可愛らしい女の子。たまに真田君の事を見ていたけど、なるほど。

 最近の女の子はアタックするの早いなぁと思いつつ、真田君にラブレターを返す。




「……風舞殿、これは一体どうすれば良いのだ……?」




 私の手にあるラブレターを受け取ろうとしないまま、彼は縋るようにこちらを見た。



「どうすれば……って、普通に読んでみたら? で、気持ちがないようなら振りなさい」

「そ、そのような……!! 風舞殿は簡単に言うが、振ると泣かれるのだ! 傷つけてしまうのだぞ!」

「当たり前でしょ、それくらい覚悟の上で皆告白してんのよ? 真田君もその覚悟に答えなきゃ駄目だよ」

「うぬぅ……」




 彼が犬だとしたら、しゅんと垂れる耳があっただろうに。肩を下げる真田君に、少々罪悪感が残る。

 告白された事もした事もない私に、このような事態を相談されても困るのだ。

 腕を組み、椅子の背もたれに寄りかかる。何にせよ、その手紙が本当にラブレターなのか確かめなくては。

 私が見る訳にもいかないので、手紙を渡された本人である真田君に読むよう指示する。

 彼は少し顔を赤らめながら、ゆっくりとその可愛らしい封筒を開けた。




『真田幸村君へ。貴方の事が、入学して間もない頃からずっと好きです。

突然こんな事言って、困らせていたらごめんなさい……。伝えずにはいられなかったんです。

今日の放課後、体育倉庫の裏で待ってます』



 と、要約するとこう書かれていたらしい。真田君に宛てたラブレターなのは確定なようだ。

 文字を目で追いながらだんだんと顔が真っ赤になっていく真田君は、かなり見応えがあった。

 手紙は2枚入っていたから、もっと長い文章で愛が綴られているのだろう。

 スパンと手を合わせるようにして手紙を閉じると、彼は真っ赤な顔のままこちらを見た。




「某は一体どうすれば良いのでござるか!?」

「ここまで言っといて何だけど、私恋愛経験0だからクソ役に立たないと思うよ?」

おちけつした意味ない!!!!



 机を叩きながら崩れ落ちる真田君を見ながら、私は再び青い空を見上げた。

 ああ、今日も空は綺麗だなぁ……。
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