へい がーる!
□01
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運命とは、時に残酷なものである。
どんなに時を経ても、途絶えない憎しみが生まれ
時を経ても尚、恨み続けた。
運命とは、時に残酷なものである。
どんなに時を経ても、途絶えない輝きが生まれ
時を経ても尚、光り続けた。
――運命とは、残酷なものである。
可憐な華の意思を、無情にも無知な少女に受け継がせた―――。
へいがーる!
「紅? 早くしないと遅れちゃうわよ?」
春が来た。花の香りが漂う季節となり、桜が舞い散る4月。
この季節、私はいよいよ、高校生となる。
新しい制服に身を包み、リビングにある全身鏡と睨めっこしていると、母親が心配そうに顔を覗かせてきた。
「待って、後もう少し……よし終わった!」
髪が整ってるかを確認し、他に乱れている所がないかを母親に確認する。
母親の返事は親指を立ててウィンクしたものだった。信用して良いものかは分からないが、大丈夫という事だろう。
これ以上鏡の前で立っていたら、折角の入学式も遅刻して終わってしまう。
「準備は出来たの?」
「うん、出来た」
「そう、じゃあ気をつけていってらっしゃいね。迷子にならないでよ?」
「何回学校見学に行ったと思ってるのさ。道くらい完璧!」
キッチンでお皿洗いをしている母親にVサインを送ると、苦笑いを返された。
今日は入学式だが、生憎家族は皆用事があって来れない。皆仕事で平日は空いていないからだ。
母親はパート、父親はサラリーマンとして会社に出勤、兄は単身赴任。
まあ入学式に出られなくとも別に寂しくはないし、私だって兄の高校の入学式は出られなかった。
むしろ両親達がいると恥ずかしい気もする。
机の上に置いておいた、買ってもらった新しい可愛げのあるリュックサックを背負い、玄関へと向かう。
――風舞紅。
それが、私の名前。
ん? 誰も聞いてないって?
人が紹介してる所にツッコミを入れるんじゃありませんことよ!?
私がこれから入学する高校は、"婆娑羅学園"という、一般的な公立高校だ。名が珍しいので少々有名だが。
今日はその学校の入学式。さて、どんなクラスに私は入るんだろう。そしてどんな友達が出来るのだろう。
わくわくする。
01:私の名前は
「あ、クラス表もう貼ってある」
登校の際に使っている自転車を駐輪場に置き学校の玄関前に行くと、ガラス張りの扉の所に紙が貼ってあった。
人ごみのせいで文字が全く見えないが、そこにクラス表が貼ってあるのだと一目で分かる。
同じ制服に身を包んだ同級生らしき人達が騒ぎ、紙の前で大はしゃぎしたり落胆したりと忙しい。
残念ながら同じ中学出身の子はここに通っていない為、喜び合ったり落胆し合う事は出来ない。
「えーと、私の名前名前……っと」
独り言をこぼしながら、人ごみを掻き分け紙の前に立つ。
今年の1学年は全部で5クラスあるらしく、成績順で振り分けられている。1組は優等生、5組は問題児といった所か。
私の名前は3組に書かれており、なんとまあ、真ん中という普通クラスになった。
優等生クラスにも問題児クラスにも正直なりたくなかったから、ほっと安堵する。いや、別に嫌ではないのだが。
そのような極端にどちらかに分かれるのは好きではない。
とりあえず3組であるということが分かり、出席番号も確認したため紙の前から退く。
1学年の教室は4階にあり、階段を上るのが辛いが、それも1年の辛抱だ。いずれ下へ下へと下がるのだから。
それにしても、この学校の校則は自由だったか? 時々目にする色の付いた髪が、私に疑問を抱かせる。
橙、金、赤、茶、銀まで。比較的茶が多いが、一体これはどういう事だ。黒の方が珍しいとでも言いたいのか。
これからの高校生活に若干の不安を覚えつつも、階段を上り1学年の教室がある4階へとたどり着く。
人が多いので騒がしいが、この騒がしさがいずれもっと騒がしくなるのだろうと思うと少し憂鬱だ。
「ここが3組か」
階段を上って目の前にあるのが、3組だ。廊下を右に進むと1組、左に進むと5組の教室がある。
3組の教室も騒がしく、入ってみると男女共に話をする子や、緊張しているのか机に座ったままの子がいる。
当たり前だが皆見覚えはなく、ギャルのような子もいれば大人しそうな子もいた。
比較的普通クラスである故か、不良は見当たらなず、ギャルも2、3人ほどしかいない。
中学が一緒らしいのか、グループが既に出来上がっている所もあった。
「えっと、席が……よく分からん」
黒板に貼ってある座席表に目を通すが、自分の名前を見つけてもどこが自分の席になるのかが分からない。
私が馬鹿なのか、それとも座席表が見にくいのか。
恐らく前者であろうが、自分1人ではどうにも分からず、仕方なく他人に聞く事にした。
だが、皆話をしていたり話しかけづらかったりで、どうにも聞けそうに無い。困った、どうしよう。
そう思った時、一番前の席で座っている茶髪の男子が目に入った。
何だかよく分からないけれど、下を向いたままじっとしている。
男子に話しかけるのは少し戸惑うが、困った時位は話しても大丈夫だろう。
「あの」
「ぅおう!?」
「どふぅ!?」
近づいて話しかけると、その人はびくりと体を震わせ跳ね上がった。
その行動にこちらも驚いてしまい、つい変な声が漏れる。
その男子はガチゴチと壊れた機械のように動きながら、顔をあげこちらを向いた。
「な、なななな何、何でご、ざるか」
「あ、えっと驚かせてごめん。あの座席表、どうやって見るのか分からないんだ」
緊張しているのだろうか? いや、それにしては大分大人しい。
その男子は、今時は珍しいどころか消えてしまっている言葉、古風な"ござる"言葉で話をした。
「あ、あぁ……あれは一番下の席が、一番前で、一番上が一番後ろ、という風に……み、見るのだ」
「あぁなるほど! ありがとう!」
やはり紙が見にくかっただけのようで、男子の分かりやすい説明にぱっと笑顔でお礼を言う。
その男子は小さく頷くと、すぐに下を向いて俯いてしまった。
暗い子なのだろうか。それにしては髪が茶色に染め上げられているが。地毛?
紙に再び目を通すと、私の名前がある四角は、一番下。つまり……嘘と言って欲しいが、私は一番前という事になる。
ちょっとショックを受けつつ、教室を確認する。すると、新たな事実が発見された。
あの男子の隣が、私の席になるのだ。彼とは何か縁とやらがあるのかもしれない。何てのん気な事を考えつつ。
名前を見ると、彼の名前は真田幸村。珍しい、というか昔歴史人物でこのような名前の人いなかったか。
と思ったが小さい事はあまり気にしないタイプなので、すぐにそのような考えは忘れた。
彼の名前を確認し席に座ると、私が隣だという事に気付いたのか、男子はちらっとこちらを見た。
もちろん下を向いたまま……。そんなに緊張しなくても、良いとは思うのだけれど。
「真田君、だよね?」
「はぅあ! しょ、う゛ぅん……そ、そうでござる」
急に話しかけられて驚いたらしく、また体をびくりと跳ね上げる真田君。
そして驚きすぎて言葉を噛むという、なんとも可愛い行動を見せる。
そんな彼についぷっと吹き出してしまった。
「ごめん、笑っちゃった」
「い、いや」
首を振りつつショックを受けたのか肩を落とす真田君。本当にガチゴチに緊張してるらしい。
「私は風舞紅。真田君のござるとかって、癖?」
「よ、よろしくお願い申す……。く、癖です」
「あはは、そんな緊張しなくても」
「そ、某女子(オナゴ)と話す機会が無いうえ……中学の友人が離れ1人で……」
「あ、そうなんだ。私も1人なんだよ」
「そ、そうなのか?」
「うん。これも何かの縁かもね、隣同士だし1人だし」
小説の書き方〜あなたが小説を書くための方程式〜【電子書籍】[ 佐賀裕司 ]
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