heretic

□救世主
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「いい?くれぐれも発言には気をつけて。気に入らないことがあっても、求められない限りは口を開かないように」
「わかってるよ」

「…ならいいけど」



大会議室前の廊下で、アディアは釘を差すようにリアルに言う。
わかっていると言いながら、なにかしでかしそうな様子に、メイリンは困ったようにため息をついた。



「さすがはマスターアディア、重役出勤かね」

「…遅くなりました」



扉を開いていきなり飛んできた嫌み。
別に遅刻などしていない、予定の10分前だ。

アディアはなるべく感情を出さないように無表情で席についた。



「さて、と。今回君達クイーンズナイツを集めた理由はわかるかね?アライヴ=ルード」
「…いえ」



いきなり話を振られたアライヴは、それでもあまり驚いた様子はなく首を振る。
それに満足した老人、大幹部のシュナイザー元帥は「そうかね」と呟きながらアライヴの隣に視線を流した。



「こんにちは坊や。お名前は?」
「アイス、ハインです」
「君は?」
「ノヴァ=ライトですー」

「そうかねそうかね。いや随分と若い副官だね、ルード隊長」



――だからなんだ。


心の中で毒を吐く。
どうせこんな子どもになにができるとでも言いたいのだろう。

本当にいちいち苛々する、とアライヴは眉間にしわが寄りそうになるのをぐっとこらえた。



「優秀なら年齢は関係ありませんので」
「それもそうだ」



副官がいるのはアディアとアライヴ、そしてルークの三人だけだ。
ルークの副官はマリクだが、治療などの助手をするマリクは、普段のデスクワークを手伝うリアル達とは少し勝手が違う。

副官というよりは医療補佐だが、それでも立場は同じ‘副官’なので、この会議には参加している。

大幹部を相手に会議をしたことがあるのは、リアル、メイリン、マリクの三人。
それぞれが目線を合わせ、二人はリアルに「気をつけろ」と言いたげな顔をした。



「わかってるって…」
「どうかしたかね?」

「っ、いえ、何も」



本当に小さな呟きだったのに、抜け目なく拾ったシュナイザーにリアルは一瞬身を堅くする。

会議の参加者は隊長五名と副官五名の他に、クイーンズナイツであるロイド、大幹部シュナイザーと、もう一人。

ルイナの支部長、コーセー=リーアムという男がいる。

コーセーはアライヴの前にハンター部隊長をしていた男だが、直接二人に面識はない。
アライヴが帰還する一年前から彼はルイナで支部長をしていたからだ。

ロイドより年上に見える、黒髪をオールバックにして顎髭を蓄えている姿はとても男らしいが、



――頭が堅そうだな。



アライヴは心の中で呟く。

実際リアルもあまりお近づきになりたくはない人だったと言うし、ちょっかいはかけない方がいいな、とあまり気にしないことにした。



「君、名前はリアル君かな?」
「…はい、リアル=ハインです」

「ふむ、あの‘有名な’リアル君か。いやお会いできて光栄だよ。噂はかねがね」



噂、という言葉に、リアルは少し戸惑う。

――どっちの意味か。


咎人の噂か、13班での噂か。
朗らかに笑っているが、その瞳は感情を感じない。
どちらにせよ聞き返すようなことはしないほうが身のためだということだけはよくわかったので、曖昧に笑ってごまかした。



「さてと、」



シュナイザーはぐるりと部屋全体を見渡し、手前に置いてあった書類を手に取る。
興味もなさげにざっと表紙だけ流し見た後、ちらり、と視線だけを前に向けた。



「最近、様子がおかしいのには気づいているかね」



しん、と静まりかえった部屋。

何の会議をするかというのは今回聞かされていないが、ノーバディや亜種の事だろうことは容易に推測できる。

誰も口を開こうとしない中、シュナイザーに言葉を返したのはコーセーだった。



「亜種の件ですか?それともマゴットシンドロームの、」
「全て」



コーセーの言葉を遮り、シュナイザーは万年筆を手に取る。
机に置いた書類をコンコンと二度突いて、「全てがおかしい」と言った。




 
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