heretic

□シンパサイザー
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ざわざわと朝の騒がしさに包まれた共同洗面所。

狭間の夢を見たその日の朝、同僚と軽く挨拶をかわしながらリアルは大きな欠伸をかました。



「ふぁあ…っ」
「おはよーハイン」

「はよー…」



ちょうどその場にいたハリーがこちらを振り返る。
まだ血のまわりきらない頭で返事を返して蛇口をひねる。

そろそろ誰かに話をしないと、と考えながら流れ出した水を手のひらでうけとめ、バシャバシャと顔を洗った。



「タオル…タオル、あれタオル…」



そのまま濡れた顔を拭こうと、目を閉じたまま横に置いていたはずのタオルに手を伸ばす。
が、どうしてか手に触れないタオルに、リアルは首を傾げた。



「あれ…?」
「はいどうぞ」

「あ、悪い」



と、誰かがふらふらさまよわせていた手にタオルを乗せる。

ありがたく受け取って顔を拭いたところで、妙な違和感を覚えて動きを止めた。



「……ん?」



ハリーの声ではない。

誰…?



「落としてたよタオル。おはようリアル」
「あ、おはよ、う…って、」



反射で挨拶を返してから、ゆっくりと顔を上げる。
そこには随分見慣れた顔が、にこにこと屈託のない笑みを浮かべていた。



「み、ミズホ…?」
「うん!」



いやいやいやうんじゃないってそんな元気よく挨拶されても困るしそもそも何でここにいんの。

と、色々言いたいことはあったが言葉が出ない。



「なにこの子、新人?」
「はい、今日からお世話になります」

「へぇ、この時期に新人なんて珍しいな」



代わりに、と言うわけではないがハリーがミズホに問いかける。

まだ寝ぼけているのかもしれない。

そう思ってリアルはもう一度顔を洗って乱暴に顔を拭った。



「どうしたの?すっきりしなかった?」
「おはよーリアル君、久しぶりだね」



沈黙。

タオルからゆっくり顔を上げ、まじまじと目の前の少女を眺める。

やっぱりミズホだった。
それどころか後ろにサラまで増えていた。



「なん、で?」
「なんでだろうなぁ…」

「うぉっ」



と、今度は後ろに朝から疲れきった様子のアライヴが現れる。
大方アイスに叩き起こされたのだろう。

足元にはなぜか麦がくっついてきている。



「おはようございます隊長」
「おはよう」

「おはよーございますー!」



なんで麦が、とかなんでこの二人が、とか朝からもう何がなんだかわからないリアルは脳内が大混乱していた。



「リアル、13班に連絡して朝飯食ったら総隊長室に集合しろ。察しはつくと思うけど、大事な話があるそうだ」
「あるそうだー!」

「…はい」



混乱しながらも反射で頷くと、アライヴはそのままやれやれといった様子でその場を後にする。
その後ろをトコトコと麦が着いていく。



「アライヴご飯あっちー!」
「わかってるって…」



あっちあっちと麦がアライヴのブーツにしがみついて抗議する。

あ、見張りか。

なんで麦が、と疑問が解消する。
わかっている、これは現実逃避だ。



「おーいハインー?おーい?」



意識がぶっ飛んだリアルに、ハリーが不思議そうに頬をぺちぺち叩く。
サラとミズホは、呆然とする原因がこちらにあるのに気づき、ばつが悪そうに苦笑いした。



 
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