heretic
□シンパサイザー
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「上の人が満足するか、漫画みたいに救世主でも現れない限り、戦争は終わらない。人間は馬鹿だから、不毛な戦争だと気づきもしない」
今も、と現はポケットから写真を取り出す。
彼自身が写っているわけではない。
全く別の、見たこともない金髪の女性の写真だ。
「これ、殺した兵士が持ってたんだけど」
なんてことないように、殺したと口にする。
その変化のない表情に戸惑いながら、リアルは写真をのぞき込む。
なんの悩みも不安もなさそうな、幸せそうな笑顔だ。
「裏にね、I swear that I do not forget you who loves.って書いてたんだ」
I swear that I do not forget you who loves.
意味は――
「私は愛する貴女を忘れないと誓う?」
「そう。よくわかったな」
「一応頭はいいんだ」
笑いながら、それでも胸を締め付けられるような気分を味わう。
兵士が愛を誓う。
きっと恋人の写真なのだ。
戦場で死と隣り合わせの世界で、それでもこの写真の持ち主は希望を捨てないで生きていたのか。
それとも死を覚悟して、愛した人へ最期の想いを馳せていたのか。
「馬鹿だな、人間は」
灰色が少しずつ近付いてくる。
あぁ、そろそろ目が覚める。
そんな風に思いながら、リアルは悲しい、とただ胸の中で呟く。
「戦場で愛だの恋だの、悲しいだけなのに、願わずにはいられない。わかっているのに争うことをやめられない。群れを作らずにはいられない。弱いのに、勘違いばかり繰り返す鳥頭だ」
現は何も言わない。
わかっているのだ。
愚かなのは人間だと知っている。
殺せば殺すほど、価値のない戦争だと痛感する。
そういえば、現は何故戦っているのだろう。
「なぁ、お前はなんで戦ってるんだ?」
「…護るため、だよ」
「何を」
「うーん、家族とか友達とか、国とか。日本は中立国なんだ」
現は少しだけ姿勢を正す。リアルもつられて後ろに着いていた手をあげた。
「他のどんな国が繰り返しても、日本は繰り返さない。日本はただ自分の国だけを護る。他国に侵攻せず、干渉せず、屈服しない。それが俺達日本軍だ」
ふぅん、と気のない返事を返す。
理想論だ。
それがいつまで続くのか。
自分の身を護るだけの正当防衛は、境界線が曖昧で複雑だ。
世界はそれをいつまでも許してくれるほど、生ぬるくも優しくもない。
いつか崩れる、錆び付いた鉄のような理想論だ。
そう考えていると、現が不意に「目が覚めるね」と複雑に笑う。
次いで襲ってきた慣れた墜落感。
いつも唐突な、この感覚。
「またね」
自分だけが落ちていく世界で、リアルは意識をとばしながら「またな」と呟く。
あぁ今日は妙に長く話せたな、そんな風に思いながら。