heretic

□シンパサイザー
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「あ、」



またこの夢だ。

何もない真っ白な世界に、一人。


いや、違う。
真っ白じゃない、奥に見えていた灰色が少し広がって、こちらに迫ってきている。


あいつも来るのかな。


そんな風に思っていると、案の定後ろから声がかかった。



「リアル?」
「よぉ」



と、振り返っておや、と軽く目を見開く。
予想していた現には間違いなかった。
が、格好がいつもの真っ黒な服ではなく、カーキ色の汚れた軍服だった。



「あ?その格好…」
「そっちこそ」



と、言われて見下ろせば、確かに自分も真っ白な服ではなく、いつも着ている白の上着に黒のズボンだった。

どうしてだろうと考えていると、現がぽつりと呟いた。



「現実が、近づいてきてるってことかな?」
「現実?」

「これ、本当にただの夢じゃないのかもしれない」



夢じゃない。

そうだろう、こんなクリアな夢、あり得やしない。
自分はわかっていた。

二つある世界、もう一人の現が言っていた、狭間の世界。
ここはきっと、いや絶対、二つの世界の境目。

現は汚れた軍服を着ている。

間違いない、向こうの世界は戦争をしている。



「なぁ、お前今どこにいんの?」
「は?」



現がいきなりなんだと言いたげに首を傾げる。
勘違いしていると気づいたリアルは、改めて「現在地」を問うた。



「起きてるとき、お前どこにいんの」
「あぁ、そういうことか。…っとね、今は硫黄島にいるかな」

「日本?」
「そう、一応日本」



一応、というのが引っかかったが、今それを気にする時じゃないと疑問は奥に引っ込める。

とりあえず今の現の状況を知りたかった。



「ずっとそこに?」
「いや、もうちょい前までは韓国にいたんだけど…まぁ、負けちゃって引きあげてきたんだ」

「負けちゃってって…」



どういうことだと眉根を寄せる。
現は困ったように首を傾げた。



「…なんつーか、まぁ、一番強い人がやられちゃって、士気落ちた瞬間バタバタやられちゃってさ…。明後日には本土に引き上げだってさ」



言いながら現が腰を下ろす。
疲れたような表情につられて座り込めば、現はため息をついて顔を上げた。



「なぁリアル」
「ん?」
「お前は今、何してるの?」



今、なにを。
別になにも変わらない。
向こうの世界に比べたら、随分平和な日常。



「魔物退治、かな」
「それってアニメみたいに?モンスターとか倒すの?」

「ノーバディ」



やっぱり人間だなぁ。

そんな風に苦笑しながら、リアルは後ろに手を着く。
現は笑うリアルに更に身を乗り出して続きを待った。



「ノーバディって、そっちで苦しみながら死んだ人間が化け物になる。それを退治して元の輪廻に返すのが俺の仕事」

「じゃあ…今ノーバディっていっぱいいるだろ」
「山ほどいるよ」



現は頭の回転が速いと思う。
山ほどいるよ、と言った瞬間、現ははぁ、とため息をつく。
彼は片手を額に当てて、困ったように呟いた。



「どうにかならないかなぁ…」
「戦争、終わらないのか?」



人間が自分で終わらせてくれるなら、どれほど楽か。
前の大戦もそうだったのだから、どうにかならないのだろうか。

それにそろそろ潮時だろう。



「兵士にはどうにもできないよ」



言って現が顔を上げる。



「俺達はただの兵士だ。戦うことしかできない。何の力もない、ただの人間だ」



ただの人間、か。

リアルはそっと目を細める。

人間は弱い。
何かに頼らなくては強くはなれず、武器を手に持ったその瞬間、自分が強くなったような錯覚を起こす。

ある意味病気のような習性が、人間を愚かにしていく。

本当は何の力もないのを、忘れてしまう習性が。



 
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