heretic

□ホットポテト
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「あ、おいハイン!」
「ん?」



今日も忙しく資料探しをしているところに、他の班の班長が声をかける。

11班のハリーだ。

彼は相当探したのか軽く息を切らしていた。



「はー、お前忙しいんだな…めっちゃ探したって」
「あー悪い、んで何?用事?」

「今日七時から班長会するってよ」



七時か。
時計を眺める、今は五時半だから、一時間半後だ。



「うんわかった。場所は?」
「第三会議室。なんか今回は隊長全員いるらしいよ」



え、と目を見開く。
班長会はいつも総隊長だけとしていたが。
すぐに信じられなくて、リアルは思わず半眼で聞き返した。



「…マジ?」
「マジマジ。あー今から緊張する…」

「えーそれやだなぁ…」



班長になって今までこんなことはなかった。
そしてふと頭をよぎる「胎動」の文字。

リアルはすっと目を細めた。



「…ハイン?」
「第三会議室に七時な、うんありがとう」



そのまま大量の資料を手に忙しなくその場を後にする。
取り残されたハリーはぽかんと口を開けた。



◇◆◇◆◇



「おかえりなさい!」
「…………は?」



自室のドアを開けて、部屋の中を走り回っていたウサギに元気よく出迎えられる。
何も知らないアライヴは事態が飲み込めずに眉根を寄せた。



「あ、おかえりなさいアライヴさん」

「ただいま、じゃなくて何こいつ、ウサギ?」
「はい、麦ですよー」



ひょいと麦を抱き上げてアイスが笑う。
いやそういうことを聞いているのではない。



「なんかイセリアに迷い込んじゃって。かわいかったし無害なんで飼うことにしました!」

「しました!」



二人、いや一人と一匹を前にアライヴは言葉を失う。
聞いた感じは勢いで飼い始めたように感じるが。



「お前拾った動物可愛かったらなんでも飼いたがるだろ」
「はい」



否定の言葉はもちろんない。

しばらく沈黙していたアライヴは、まぁ無害ならいいかと上着を脱いでデスクチェアに腰掛けた。



「ちゃんと世話しろよ」
「兄さんと同じこと言いますね」



沈黙。

別にアイスが世話をしないとは思っていなかったが、自然と言葉が出た。


こういうのは兄の性のようなものだ。



「アライヴサン?」
「アライヴが名前だよ」
「アライヴさん!」

「そうそう偉いね麦ー」



随分流暢に喋るウサギだ。
思わず凝視すると、気づいた麦は可愛らしく「ぷぅ」と鳴いた。




「アライヴさん、なんで喋るんだーとかそういう反応はないんですね」
「マーチラビットだろ?それうちにも迷い込んできたことあるから」

「え、」

「ミズホが飼いたがったけど、母さんが思いっ切り森に放り投げたからなー…」



死んだかもしれない、とは口にしない。

安否はわからないが、とりあえずマーチラビットはそのトラウマになりそうな出来事もあってよく知っている。



「そうですか…」
「アイス?」



何ともいえない顔をするアイスに麦ははてなマークを浮かべる。

それを見た二人は同じタイミングで苦笑いした。



「さて、と…」



改めてイスに腰を据え、ネクタイを軽く緩める。
これから新たな‘敵’と戦わなくてはならない。



「締め切り早いのどれ?」
「あ、右手に並べてある書類です。確か明後日だったと…」


「あー…うん、明後日な。こっちは…」



きれいに整理された書類、期限ごとにきっちりと並べられている。
アライヴはペンを取って書類に目を通し始めた。

また慌ただしい毎日が始まる。



 
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