heretic
□ホットポテト
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三日間の休暇を終えたアライヴは、その足ですぐに隊長達と会議を始めた。
内容は言わずもがな、先日アディアと電話で話した件だ。
「今のこの状況と過去の記録を照らし併せて、ほぼ予想通りの結果が出たわ。120年前と140年前、ともにノーバディの大量発生が起こってる。亜種の記録も多くないけど数件、その時は自然に収まるのを待ったみたい」
「震鬼は?」
「こっちも時代は同じ120年前と140年前に、数は増えたって記録はなかったけど、亜種の記録がいくつか。対応策は特に記録されてなかったから多分まだ見つかってない」
2日間の間に調べた資料をまとめて手渡す。
まさか戦争が起こってるなんて思いもしなかった三人はただアライヴの勘に関心するばかりだった。
「こういうときクオレの直感ってのは役に立つなー」
「どうして戦争だなんて思ったの?」
資料をめくるルークが問う。
アライヴは言葉も曖昧に返事をした。
「まぁなんとなくな…」
嘘だ、と心の中で呟いたのは言ったアライヴ本人だ。
これは勘ではない。
半月前に見た夢、到とか言う男が言った言葉が頭をかすめた。
有り得ないとは思っていたが、今この状況に来てまさかと思ったのだ。
「とにかく、向こうで何か起こっているんだったらこっちではどうしようもない。何か策を練らないと、一般市民を巻き込んでしまいかねないぞ」
それだ。
一般市民を巻き込んで死者でも出たらそれこそ大騒ぎになってしまう。
今はまだ単体出現が多いが、そのうち群れでも作り出したらイセリアだけでは対応しきれないかもしれない。
アートの言葉に皆が頷いた。
「前回前々回は自然収束か…。期間も長かったみたいだけど、打つ手が無かったのかもな」
「一番長いのが第二次世界大戦の約六年、第一次は四年、か。ノーバディが増え始めてきたのが四年前ってことは、今回の戦争も四年前から?」
ルークの言葉にミナの姿が頭をよぎる。
あれが始まりだ。
アライヴは顔が歪んでしまいそうな感情を押し殺して平静を装った。
「多分な。…マゴットシンドロームもノーバディの影響を受けての病気だし、ひょっとしなくてもその頃から始まってたんだろう」
いろんな歯車が噛み合わず、狂い始めたのは四年前。
人間が狂えばこちらの世界も狂う。
つまりはそういうことだ。
「なんにしろ打つ手が今までなにもないんじゃ話にならないわ」
アディアが溜息混じりに資料を放る。
過去二回、合計十年の時間の間、なにも打開策は見つからなかった。
なにも考えなかったはずはないし、一つくらいなにか策があっても良さそうなのにと思う。
「ここまでノーヒントだとなぁ…」
ジェイドがぼやく。
五人は顔を見合わせてため息をついた。
「…今は様子を見よう」
アライヴのつぶやきに四人が顔を上げる。
「とりあえず警戒はするけど、これからどう転ぶかわからない。焦って事を仕損じるよりは、まず状況把握をする方がいい」
「そうね、まだ調べたら何か出てくるかもしれないし」
立ち上がっていたアディアは椅子に腰を下ろして息をつく。
そのまま数秒、沈黙を破ったのはなにか思いついたように顔を上げたアートだった。
「…渡り鳥に調べさせたらどうだ?」
「渡り鳥?」
一つ頷きアートは資料に目を落とす。
「クリスに各地の様子を調べさせて、今現在の情報を集めるんだ。大人数のチェッカーを派遣するよりよっぽど効率がいい」
クリス、イセリアお抱えのワンダーフォーゲルだ。
彼女はイセリアの為なら何だって調べてくる。