heretic
□神の決断
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日も高く昇った頃、一ヶ月半ぶりに黒装束に身を包む。
違和感のない着心地は軽く、体によく馴染む。
「シロ」
どこへともなく声をかけると、屋根の上から白銀が降りてくる。
そのままカガミの肩に留まった白銀は細い前足で器用に首を掻いた。
「若」
と、後ろから声がかかる。
振り返るとそこには宵月と、まだ眠たそうな幾月が立っていた。
「これ、あげるよ」
「っと、何?」
投げ渡された小さな皮袋を受け取って問いかける。
宵月は「見ればわかるよ」と笑った。
「精霊珀?」
「そう。玉にしてあるから威力は高い。役に立つと思うよ」
袋をのぞくと、中には丸く加工された精霊珀が入っていた。
玉、というのはただ加工しただけではなくさらに魔力を込めて効果を上げた精霊珀のことだ。
「でもこれ…」
「まぁ使わねえかもしれねーけど、取りあえず持っとけって」
眠気を隠さない幾月が大きく伸びをする。
カガミは別に返す理由もないので礼を言って玉をしまった。
本来精霊珀というのは属性のないエグザイルが使用するものだ。
それ以外の亜人は皆それぞれの属性があり、特に精霊珀がいるという状況はあまりない。
属性はフレイム、アクア、エレキ、エアロ、アース、フリージ、そして無属性のゼロの八つあり、種族や個人でそれぞれ特性がある。
ちなみにカガミの属性はエレキ、今受け取った玉はフレイムとエアロの精霊珀だ。
幾月がフレイム、宵月がエアロだから多分こうなったのだろう。
「さて、と」
「そろそろだね」
時計を確認する、と、気配を感じた白銀が庭に向かって小さく鳴いた。
現れたのは12時間前対面した鴉、人数も同じ、面は外して頭に避けている。
「これで全員か」
「は」
「そうか」
後ろを振り返り、二人に目線を送る。
了解の合図を見届けて、カガミは鴉を連れて北へ足を向けた。
◇◆◇◆◇
「寒…っ」
言ったのはいかにも暖かそうなコートに身を包んだリアル。
いくら防寒をしても剥き出しの顔には冷たい風が直撃して痛いほどだ。
リアルは手袋を着けた手を頬に当てた。
「アンタ寒いのダメなの?」
「いやまぁ普通だけど寒くない?なんでお前手袋してないの有り得ない」
「武器が細いから取り出すとき邪魔なのよねー」
と、わりと平気そうなシンディはひらひらと手を振る。
その仕草にすら眉根を寄せ、リアルは昨日のことを思い出していた。