heretic

□神の決断
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虫の鳴く音が静かになった庭に響きわたる。

子供達の寝静まった深夜、本家の御上の方が集まった嘉神の部屋もまたしんと静まり返っていた。



「若、時間です」
「…来たか」



時刻が深夜0時を指すと同時に、庭に五人の‘鴉’が舞い降りる。

深々と頭を垂れた鴉に、カガミは無表情で「顔を上げろ」と呟いた。



「カガミ様、お久しぶりでございます」
「あぁ」



縁側まで出て彼らを迎え、カガミはそっとため息をついた。

現れたのは御上の方が「鴉」と呼ぶ、サガラの若衆だ。
恭しく礼をする鴉に、カガミは無表情を崩さない。



「変わりないか」
「は」



嘘をつけ。

口には出さないが、心の内でそう呟く。
散々御上の方の手を焼かせていることに、彼らは気づいていないのか。
はたまた敢えてそう言っているのか。


後者なら相当質が悪い。

カガミはちらりと後ろに目をやり、まずはその化けの皮を剥がしてやろうとハッパをかけた。



「変わりない、か。と言うことはまだ俺の言うことに納得していないと言うことか?」

「当然です。カガミ様、貴方は利用されているのではないのですか?どうかお考え直しを」



即答。
強い口調で鴉が言う。

案外素直な奴らだ。

心の中で呟き、カガミはあえてそれを無視して首を傾けた。



「顔を見せろ」
「は…?」
「面をとって顔を見せろ」



一瞬戸惑う仕草を見せ、しかし鴉はカガミに従い面をはずした。
現れた顔はまだ若い、上はリアルや自分と同じくらいから、下はそれこそアイスと同年代位の少年もいる。


そんな子供までが、そう思うと不意に可笑しさがこみ上げてきた。



「…カガミ様?」

「いや、どんな顔でそんな台詞を言っているのか気になってな」



くつくつとのどを鳴らし、浮かべたのは複雑な笑みだ。
カガミの後ろで控えている御上の方は、皆顔を合わせて眉根を寄せた。



『本気なのか?』
『あぁ』



数分前、鴉がここに現れる直前だ。

カガミは御上の方を集め、事も無げにこう言った。



『鴉を連れていく』



どこに、とは言わなかったが、それもすぐに理解できた。
カガミは鴉を自分の鬼退治に連れていくと言い出したのだ。



『まだ青鬼退治の半人前なんか、連れていったところで役に立つわけないだろう』
『分かってますよ』



馬鹿馬鹿しいと吐き捨てた水無月にも、カガミはたじろぐことなく平然としている。

仕事の手伝いをさせるわけではないらしく、では一体何を考えているのか。

問うて見てもただ意味ありげに笑うだけで理由も分からず、しかしカガミの采配なら従うしかない。

結局納得できないまま御上の方は鴉を迎えたのだ。



「鴉、お前達赤鬼は見たことあるか?」
「いえ…。まだ半人前の身ですので…」



これは本当だ。
別に彼らを疑っているわけではないが。

半人前の鳥の面は、基本的に青鬼、つまり一番弱い震鬼しか任されない。
面の位が上がるごとに、震鬼もより強いものへと変わっていく。
赤鬼は彼らが相手にできるレベルではない。


困惑した様子の鴉に、カガミは首を傾げて提案した。



「そうか。ならその赤鬼、見てみたくはないか?」

「え?」



突然の申し出に鴉達が目を剥く。
それはそうだ、順番通りに行けば次は紫鬼、それをすっ飛ばして赤鬼と対峙するのだ。

戸惑わないはずはない。

カガミは予想通りの反応を見て目を細めた。





 
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