heretic
□本音
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「おや、遅い昼食だねぇ」
「毎日こんなもんですよ」
券売機で買ったチケットを渡す。
疲れた様子のアライヴを見て、チケットを受け取った女性がその顔をのぞき込んだ。
「A定食ね。忙しいのかい?」
「忙しくないことがないですよ」
「はっはっは!隊長は大変だねぇ!持っていってやるから席に行ってな」
「どうも」
食堂の調理師、マリー=リリーは豪快な女性だ。
自分がイセリアを抜ける前からここの調理師をしていた。
子どもはいないそうで、だからかよく「イセリアの奴らが私の子どもさ」と言っている。
本部の隊員は全部顔も名前も覚えていて、いつもこうやって話をしてくれる。
本部隊員の「お母さん」だ。
「ふぅ…」
「はいおまち。ため息なんかつくと幸せが逃げるよ」
「…逃げたもんはしょうがないですよ」
「吸っときな。まだその辺に漂ってるだろう」
「なんだそりゃ」
思わず脱力して笑うと、後ろから声がかかった。
「やほーアルー。お疲れだねー」
「ルーク」
「おばちゃん、僕もA定食お願いします」
「はいはいお待ちよー」
当然のように隣に座ったルークをふと眺める。
イセリアに来て1ヶ月経つが、そういえば誰かと食事をしたのは初めてだ。
「なに?」
「いや、誰かと食べるのは久しぶりだったから」
「いつも一人なんだ?」
「まぁな」
言うと、ルークはやっぱり、と言いたげな顔をする。
それからいいことを思いついたように身を乗り出した。
「じゃあ明日から一緒に食べない?」
「えー…」
「あーまたそういうこと言うー。傷つくんだからねー」
「あらまぁそれは失礼」
「ぶっ、なにそれウケるから!」
なんてふざけているうちにルークのA定食を持ってマリーが戻ってくる。
サービスなのか、二人分のコーヒーもつけてくれた。
「あいお待ち。仲良しだねぇ」
「そんなことないですよ」
「ちょ、そこは否定しないでよ!」
眉を下げるルークに再び笑って食事をすませる。
そう言えばと用事を思いだし、コーヒーを流し込んで立ち上がった。
「さてと」
「総隊長んとこ?」
「なんだお前もか」
「ていうか隊長全員呼び出しされてるみたいだよー」
ぽややんとしたオーラを流してこちらもコーヒーを流し込んで立ち上がる。
「マリーさん、コーヒーありがとう。ごちそうさまでした」
「はい、どういたしまして」
「行くか」
「ん」
丁寧に頭を下げてその場を後にする。
忙しなく食堂をあとにした二人を見て、マリーは面白そうにため息をついた。
「がんばんなよ、二人とも」