heretic
□本音
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「今日は特に外回りの任務はありません。多分デスクワークだけになると思います。あと情報処理部が三日前の5班のNo.7825の報告書を貸してほしいそうです」
「理由は」
「現地状況の把握と記録だそうです」
「了解。ほかには?」
「昼食後に総隊長が少し伝えたいことがあるので総隊長室にと」
「…わかった」
朝、アイスから今日の予定を聞いてその日の仕事をこなす。
ノルマを越えられなければ残業、時には完徹もする。
なかなかハードな日常。
本部隊員の顔も大分覚えてきた。
ファントムゲームから1ヶ月。
そう、気がつけばもう1ヶ月が過ぎていた。
「変な夢だったな…」
「なんですか?」
「ん?あぁいや何でもない」
素早く夢のことを頭の中から追い出す。
今はそんなことを考えていられる程余裕はない。
「アイス、ルイナ周辺の二年分の海上戦歴の資料借りてきてくれ」
「他にはありますか?」
「あ、情報処理部にこれも」
「了解しました。…バックレないでくださいね」
「はいはい早く行け」
「ノヴァ、見ててよー!」
「はーいかしこまったよー。いってらっしゃーい」
ひらひらと手を振ったのは、ノヴァ=ライト。
ハンター部隊隊長補佐についた14歳で、彼は非戦闘員だ。
ぽややーんとしているがこれで油断できない性格で、やることはしっかりやる。
「さてと…」
「だめですよーサボりはー」
「…いや、トイレに…」
「あーすいませんーじゃあ部屋のトイレでどうぞー」
立ち上がったそばからこれだ。
気もきくし頭もいい。
優秀だが、アイスとコンビを組んだせいかそれとも素なのか、抜け目ない。
トイレも油断できない。
イセリアに来て副官がついた。
副官は志望者に試験をして上位二人を選抜する。
基本的に頭が良ければなれるわけで、合格したのがこの二人。
ノヴァはともかく、まさかアイスが副官になるとは思ってもみなかった。
「まさかこうなるとはね…」
蛇口を捻って水を出す。
流れる水を眺めながら、アライヴはもう何度目かわからないため息をついた。
元々しっかり者だとは思っていたが、予想外にやることはきっちりやる奴で、なかなか手厳しい。
最初のうちは自分が見ていたあのアイスは偽物だったんじゃないかと首をひねったものだ。
「ノヴァ、そこの黄色のファイル取ってくれ」
「はいどうぞー」
仕事が始まって、毎日書類はベルトコンベアーのように流れてくる。
たまに首を傾げるような書類まで流れてくるが、そこは紙飛行機にでもして飛ばしておいて、承認未承認のはんこを押す。
流れるように書類を処理する。
が、リアルタイムに次々入ってくる書類は減ることを知らない。
どうにもならなくなったら完徹というわけだ。
「疲れる…」
「大丈夫ですかー?」
「あぁ、まぁ大丈夫だよ」
とは言うものの、こう毎日続くとさすがに疲れてくる。
連日の徹夜のせいで、時間の感覚もすっかり鈍ってしまった。
「…っと、もう昼か」
何気に目をやると、時計は一時を過ぎていた。
いつも忙しいせいで昼を忘れる。
「お前ら昼行っていいぞ。二時まで昼休み。アイスにも伝えといてくれ」
「あ、はーい。隊長は?」
「これをすませたら行くよ。そのまま総隊長のところへ行くから、用事があったら無線で呼べ」
「わかりましたー。お先にいってきますー」
一人になった部屋で書類をすませ、30分後になってようやく遅い昼食に出る。
ピークを越えた食堂は人もまばらで静かだ。