heretic

□本音
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「………?」




気がつけば灰色の世界。
浮いているのだろうか、天地の境目はなく、音も聞こえない。
自分の声と呼吸だけ。




「…夢?」




そういえば夢かもしれない。
似たような夢を見たことはある。

ひとりぼっちの夢。

あぁそうだ、これは夢だ。




「夢?夢なのかこれ」
「……っ!?」




と、後ろから声がする。
とっさに後ろを振り返ると、自分とまるで同じ顔の男が立っていた。




「あー…もしかしてアライヴ?」

「誰だ?」




黒い髪だ。
でもまるで同じ顔、同じ声。

まるで分身のように。




「俺?俺は到。はじめましてアライヴ」




否定しないでいると、やはりそうなのかと丁寧に名を名乗り挨拶までした。
妙に現実味を帯びた夢は、そこが夢ではないような錯覚を起こさせる。

訳が分からないと頭を掻くと、名乗った到は思い出したように瞠目した。




「そうだアライヴ、頼みがあるんだ」
「は?」




いきなり何を言い出すのか。
思い切り胡乱げな声を出すと、到は慌てたような、それとも焦ったような様子で首を振った。




「世界中もうどうしようもないんだ」




戸惑うばかりで意味の分からない自分に、到は言葉を投げる。
彼はせっぱ詰まっていて、どこか悲しそうだ。




「待てよ、これは」
「夢だ。多分…つながった夢。お前と俺の世界がつながった夢」

「つながった…夢?」




訝しげに眉をひそめれば、到はそうだと頷く。

夢にしては現実味を帯びている。
でも彼は夢だと言っている。

つながった夢。




――本当に夢なのか?




まだよくわからない顔をしていると、到はじれたように一つ首を振った。




「悪い、詳しく話す暇はないんだ。これは夢だから、早くしないと俺かお前が目を覚ましてしまう。だから」




――目を覚ましてしまう。




あぁ本当に夢なんだ。
ようやくそう理解したところで、到は酷く抽象的で印象的な言葉を続けた。




「戦争が激化して、もう誰にも止められない。俺の世界にはもう誰も止められる奴がいないんだ」

「…戦争?」




突拍子もないことを言い出した男に眉根を寄せる。
到はそれを気にする暇もないというように話を続けた。




「そう、お前たちの世界の反対側では世界大戦が起きてる。だから」

「…ちょっと待てよ。お前は――」




――……!




必死な男をなだめようと口を開くと、どこから声が聞こえた。


もうすっかり馴れたこの声は――。




「アライヴ!」


「!」




呼ぶ声に再び前を向くと、いつの間にか到は随分遠くにいた。

近づきたくても近づけない。
どんどん離れていく到に手を伸ばすと、彼は離れていく最中に一つ、大きな声で叫んだ。









「助けてくれ!」


















「隊長、ルード隊長!」

「……っ!」




はっと目を開けると、膨れた少年の顔が目に飛び込んでくる。

寝起きでぼーっとする頭であたりを見渡し、それからゆっくり体を起こす。

膨れていた少年は憤懣やるかたないといった様子で腰に手を当てた。




「いつまで寝てるんですか。もう八時ですよ?」
「…夢か」

「聞いてますかルード隊長」
「え?あぁ聞いてる聞いてる」




膨れる少年、アイスを適当になだめて洗面所に向かう。
身支度をして再び部屋に戻ると、しっかりと朝食が準備されている。




まるで嫁みたいだ。



アライヴはもう毎朝の日課になってしまったこの光景にこっそりため息をついた。




 
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