heretic
□試行錯誤
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「失礼します」
入りなさい、とノックの返事が返ってきたのを確認してドアを開ける。
するとそこにはイセリアのそうそうたるメンバーが集まっていた。
「やぁ、久々だね13班諸君」
「元気みたいだなー」
「た、隊長方…」
のんびりと手をあげたのはイセリアヒーラー部隊長ルーク=サイド、元気みたいだな、と言ったのはプロテクター部隊長ジェイド=オラリスだ。
そしてそのジェイドの奥、アディアの右隣に立って腕を組んでいるのはセイバー部隊長アート=レイリー。
総隊長執務室にイセリア全隊長が揃い踏み、というわけだ。
「うーん、やっぱりアディア一人で伝えた方がよかったんじゃない?」
「どうして?」
くすんだ金髪に黒縁の眼鏡をかけたルークが、13班の様子に苦笑する。
「馬鹿だなお前見りゃわかんだろー、身構えてんじゃねーか」
なぁ、とジェイドがリアルの肩に乱暴に腕を回す。
彼は焦げ茶色の髪を頭の高い位置に結い上げている。
イセリアでも二人しかいないエグザイルだ。
「ジェイド、場をわきまえろ」
「そう堅いこと言うなよアート。リラックスさせてやってるだけだって」
そしてもう一人のエグザイルが、剣呑な瞳でジェイドを制したアートだ。
彼女は緑色の髪で背が高く、口調も相まって男性とよく間違われる。
イセリア隊長の中では、たるんだ雰囲気を締め直す役割になる。
「あの、今日はなんなんですか…?」
ジェイドに腕を回されて若干前かがみになったリアルが問う。
こんなメンバーが集まって、いきなり任務遂行の自信がなくなってきた。
それは他のメンバーも同じらしく、皆目を合わせて不安げにしている。
「書類に目は通したかしら?」
「アライヴ=ルード捜索任務、ですよね。誰なんですか、そのアライヴって人」
シンディが首を傾げる。
すると考え込んでいたメイリンがはっとしてシンディの腕を引いた。
「あ、アライヴってあの人だよ!大集会場の石碑にある…」
「第30代目イセリア総隊長よ」
アディアの口から出た言葉に、13班がどよめく。
第30代目イセリア総隊長、その人は――
「歴代最年少で総隊長になった天才。だがその重責に堪えられずイセリアを裏切って逃走、公開処刑された人物だ」
説明したアートが、わずかに目を伏せる。
アライヴ=ルードは四年前、公式記録ですでに死んだことになった人物だ。
歴代最年少16歳で総隊長に就任、しかし3ヶ月後にイセリアから逃走をはかり失敗、その代償に大集会場で公開処刑された男だ。
つまり総隊長は死んだはずの人物を捜せ、と言っていることになる。
「死んだ人を捜すなんて、いくらなんでも…」
マリクが不安げな声を上げる。
「彼は生きている」
「え…?」
「アライヴは生きてるんだ。死んでなんかいない」
なにを根拠に、と生きていると言ったルークを見つめる。
するとジェイドがルークの言葉を補うように、右手を差し出した。
「証拠ならあるぞ」
その手には、小さな銀の懐中時計が一つ乗っている。
「あの、それが何か…」
何も言わずにリアルから腕をはずしたジェイドは、その掌を返す。
当然落ちていく時計は、しかし床に到達する前にその姿を変えた。
「なっ…」
「はじめまして」
姿を変えた銀時計は、赤いミニドレスを着た少女の姿となっていた。
「彼女はアリス。私の持っているこのストライクと同じ、多変型高性能武器よ。主はアライヴ=ルード。彼女は今もアライヴとの契約を守って主を変えていないわ」
あらかた自分の説明をされたところで、アリスは丁寧にお辞儀をしてみせる。
何も言わないということは、アディアの言うことは真実なのだろう。
「えーと、つまり…?」
それでもいまいち言いたいことがよくわからずに首を傾げる。
それを見たアディアは、仕方がないわねと言わんばかりにため息をついた。