その他短編

□TURN After
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悪逆皇帝の死から、もう1ヶ月が経とうとしていた。


彼の葬儀は秘密裏に行われ、目立たないところに墓も立ててある。
そこに、2人の来訪者があった。
1人はルルーシュの実の妹であり、神聖ブリタニア帝国代表、ナナリー・ヴィ・ブリタニア。
そして、彼女の車椅子を押している人物。”英雄”ゼロ。しかしその仮面の下は、元々のゼロではない。先のダモクレス戦役で死亡したとされた、ルルーシュの騎士”ナイトオブゼロ”で親友であった少年、枢木スザク。
2人はルルーシュの墓の前で、ルルーシュの墓標を眺めていた。


ナナリーが車椅子から墓標に花束を置く。
本来ならば悪逆皇帝の墓参りというのは禁止されている。しかし特例としてこの2人は例外だった。2人が最初にルルーシュの墓参りを禁止した人物であったからだ。
ルルーシュは今世界中の人々から恨まれ、憎まれている。そんな彼の墓を開放してしまっては、荒らす人間はいくらでもいるだろう。そう考えて、2人はここを封鎖したのだ。


しばらくの沈黙の後、ゼロであるスザクが口を開いた。
『・・・ナナリー殿下。少し、お話しされますか?』
「・・・その呼び方はやめてください、スザクさん。今は殿下でも代表でもなく、ただのナナリーとしてここにいます。あなたも、仮面を外していいと言いましたのに・・・」
『いえ、私が仮面を外すわけには参りません。』
ナナリーはスザクのその態度に少しだけ不満そうな顔をした。
「あれから、もう1ヶ月ですか。時が経つのは早いものですね。」
『・・・』
スザクは答えない。
「スザクさん。今は敬語はよしてください。久しぶりに、3人で話をしましょう?」
『・・・分かったよ、ナナリー。』
ナナリーの頼みにスザクが折れ、スザクは敬語を止めた。


「お兄様。今、この世界を見ていらっしゃいますか?お兄様のお陰で、この世界は平和になりました。私も、今はブリタニアの代表として忙しい日々を送っています。
・・・お兄様は、多分”それでいい”と笑うのでしょうね。
スザクさんから聞きました。お兄様は今、”Cの世界”というところにいると。そこからでも、私達のこの世界は見えますか?私達を、見守っていてくださっているのですか?」
ナナリーは墓に向かって話しかける。その姿を、誰も咎めることはしない。
「お兄様は、優しいから・・・。私に、たくさんのものをくださいました。この世界だって、お兄様が残してくださったものですもの。・・・私は、お兄様がくれたものを守りたい。でも・・・」
ナナリーの瞳は潤んでいる。
「私は・・・!お兄様と過ごせれば、それだけで良かったんです!幸せに、2人で暮らせればそれで良かった!なのに・・・」
ナナリーの目がら、光る雫が頬を伝う。
「ごめんなさい・・・。でも、どうしても考えてしまうんです。前を向かないといけないって分かってる。けど、お兄様が生きている未来を、どうしても思い浮かべてしまうんです。また、会いたいって願ってしまうんです・・・!」
ナナリーの手に、雫がぽたり、ぽたりと落ちた。ナナリーは俯いて、肩を震わせている。
スザクも、ナナリーに話しかけることはしない。だが、仮面の下の顔は悲しげに歪んでいた。
「何で・・・何で逝ってしまわれたんですか!私、何も出来なかった!お兄様が考えて、実行しようとしている時に、私は酷いことをたくさん言ってしまった!私、私・・・!」
『・・・ナナリー。』
スザクに名前を呼ばれたことで、ナナリーは手で涙を拭った。
「・・・すみません、スザクさん。」
スザクにはナナリーの気持ちがよく分かった。
ナナリーはあのパレードで、目の前でルルーシュが息を引き取った時から満足に泣くことも出来なかった。その思いが、今ここであふれ出てしまったのだろう。1ヶ月も悲しみをよく耐えたものだと、スザクは思っていた。
『そろそろ戻ろう。・・・大丈夫かい?』
「ええ・・・。ほんと、すみませんでした。3人で話そうって言ったのに、私だけ、こんな・・・」
『いや、大丈夫。それに・・・ナナリーは、泣いてなかっただろ?あの日から・・・。今はゆっくり泣いていいから。』
「・・・ありがとう、ございます・・・。」
ナナリーはごしごしと目を拭い、スザクの方を向いた。
「もう、大丈夫です。では・・・ゼロ、部屋に戻ります。」
『イエス、ユアハイネス。』
ナナリーは、真っ赤な目で笑っていた。必死に、泣くまいとするように。

2人は、ルルーシュの墓を後にした。
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