短編作成

□諦めるには
1ページ/1ページ


これの続き




【 諦めるには 】






「岩泉ー」

教室を出て次の教室に移動をしようとしたとき同じチームメイトの花巻が話しかけてきた。

「お前の旦那が監督に『岩ちゃんとの時間を邪魔しないで!!』とか言ってたぞ」
「旦那じゃねぇし、あの馬鹿殴る」

ぐっと拳を握りしめるのは見慣れたものだ。

「いいじゃん、愛されててさ」
「良くねぇし気持ち悪いこと言うなっつの」

及川の俺に対してのスキンシップという嫌がらせは高校に入ってから益々目立つようになった。
口を開けば「岩ちゃん、岩ちゃん」。
どこかに行こうとすれば「どこに行くのー?」とか言って後ろから後を着いてくる。まるで金魚の糞だな、と言えば少し青ざめた表情を浮かべ、それから2、3日はまとわりつかなくなる。
傷つけたかと思えばまたしばらくしてから「岩ちゃん、岩ちゃん」とまた引っ付いてくる。

だが及川が誰かに引っ付くことなど滅多になく、幼馴染みの俺だけで特権だと思っている。小せぇ頃から一緒にいたアイツに対して俺は特別な感情を抱いているのは秘密だ。
だってアイツはイケメンで俺からすれば性格はクソだがバレーに対しての思いは人一倍で。多分、そんなところに惹かれたのだと思う。

「早く、回収して来い。監督が困ってるから。」
「あー…クソめんどくせぇな!!」

ガシガシと少し乱暴に髪を掻き及川がいるであろう職員室に向かった。これも幼馴染みの特権というヤツだろうか。やっぱりアイツを放っておくことが出来ないのも惚れてるからだろうか。





職員室に入れば不貞腐れ唇を尖らしている及川とそれに困ったように話をしている監督が目についた。
唇が僅かに動いているのを察するには多分不機嫌な声で「はい」とか「いいと思いまーす」とか言っているのだろう。全く呆れたヤツ。


「おい、クソ及川。ちゃんと監督の話を聞けっての」
「岩ちゃん!!?」

俺の登場でほぉと一つ溜め息を洩らしている監督に申し訳ない気持ちになる。だがそんな俺を裏腹に及川はぱぁと花開いたような表情をしている。先程の不貞腐れ及川はどこいった。

「丁度良かった、岩泉。―――」

監督は及川にした話をもう一度俺にした。多分、ここで俺が来ていなかったら監督から次に呼び出されていたのは副主将の俺だろう。
その隣でご機嫌モードの及川も「はーい」とか言っている。しかもどさくさに紛れて腕までを絡めるというサービス付き。

監督の会話を終えて職員室を後にした俺は及川に叱責を飛ばしていた。

「お前さ、ちゃんと監督の話は聞けよなっ」
「はいはーい、分かってますって!!」
「分かってねぇから俺にまで話をしてんだろうが、クソ川!!!」
「名前と暴言をくっつけないでぇ!!!」

とか言ってメソメソと泣き真似をする。

「岩ちゃんだけだもん、俺がこんな風に絡むのは!」
「っ…」

ホンットこいつは人の気も知らねえで。簡単に言いやがる。
俺がどんなにこいつを諦めようと思ってもこいつは「岩ちゃん、岩ちゃん」と言ってくっついてくる。「岩ちゃん愛してる!」や「岩ちゃん大好き」だっても言ってくる。本当に生き地獄のような苦しみだ。




諦めるには
(どうしたらいい―)



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ