短編作成

□馬鹿で可愛い勘違い 2
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馬鹿で可愛い勘違い 2



王様から恋人じゃないと言われての翌日―
これまで色付いていた景色が嘘のように色褪せていた。
王様にとって僕は普通の同級生でチームメイトだったのかと思うと苛つきより悲しみが強かったのは当然だろう。

いつもツッキー、ツッキー煩い山口も昨日のことを話したら口をあんぐりと開けて言葉が出てこない様子だった。
だけど一言だけ「ツッキーが悪いんだよ」と言ったきりそれっきり会話を交わしていない。

(全く……わけが分からない)

僕の何が悪かったというのか。
その意味が分からずイライラし自分より遥かに小さな日向を掴まえ階段の踊り場まで引っ張ってきた。

「ねえ、昨日から何なの?」
「……」

日向はぷいっと横を向くがその目には絶対に何も言わないといった強い意志が見られた。

「…言っとくけど僕が影山を振ったんじゃないんだからさ、睨むのはお門違いなんじゃないの?」
「……ホントに言ってんのか?」

ぴりっとした雰囲気が日向から放たれる。試合中にもよくあるあの雰囲気だ。

「……お前、影山に近づくなっ!!」

それだけを言って日向は月島の横をすり抜けて歩いていってしまった。

日向は休み時間に言っていたように月島が影山に近づけないように邪魔をしてきた。
近づくなも何も…僕は影山に近づく気すらしなかったのに。



* * *


帰り道。
いつも山口と帰るのだが今日の山口は不機嫌で「先に帰る」と一言だけ言ってずんずんと帰ってしまった。
帰ろうと思ったが自分が愛用しているタオルが鞄に入ってないことに気付き短く舌打ちをする。部室にないということは確率的に高いのは体育館だ。今行けば自主練中の影山に会うことになるのだが―

(汗臭いのを明日持って帰るのも嫌だしな…)

眉間に皺を寄せ随分悩んだが月島は取りに行くことにした。
体育館へと足を向け影山に何か言われたらどうしようと考えながら足を進めた。

体育館は電気が点いていた。
影山がいるのは一目瞭然だった。だけど、そこからはボールの跳ねる音がしないといけないのだがそこから音がしない。
不思議に思い体育館をそっと覗いてみたらボールを持って突っ立ってる影山がいた。

「……っくそ!!」

ダダアンとボールが床に擦れ大きくはねあがり壁にぶつかる。
何度も何度も―

影山の表情は長い黒髪に隠れ見えないが苛ついているのは手に取るように分かる。

「―――別れ、たく…なかっ……た…」

ぽつりと呟いた声は僕にも聞こえた。

(え―――?)

影山が別れたくなかったと言った。
何をこの期に及んでそんなことを言っているんだ。君から僕を振ったくせに―
だけど、影山の声が酷く僕の心を抉った。

「月島」

優しい声が後ろから聞こえ振り向くと眉間に皺を寄せ苦しそうにしている菅原さんが立っていた。

「……影山が、何でお前と別れたと思う?」

その答えは僕がずっと聞きたいと思っていたことだった。
確かに恋人らしいことなんて何一つしたことなかった僕らだけどそれでも一緒にご飯を食べたりした。一緒に帰ったりもした。
楽しかったのはきっと僕だけじゃないんだ。だって彼は『別れたくなかった』と言っているのだから――

「…教えて、ください…」
「――月島はさ、影山以外に彼女がいるの?」
「――っは?」

僕に影山以外に彼女がいる?
有り得ない。僕は影山だけ―――

「…最近、1年で噂になってるらしいんだ…日向も山口も聞いたって言ってた…」

日向は兎も角、山口が僕の噂をそう簡単に信じるわけが―
そこではたっと気がついた。
山口は僕にちゃんと忠告をしてくれていた。

ツッキーって恋人のこと何も分かってないの?


確かに山口はそう言っていた。
そのあと、僕は彼女だと言っていた女子生徒と荷物を運んだ。それを影山が目撃していたとしたら―
只でさえ変な噂が広まっていたというのに、女子生徒と喋りながら荷物を運んでいたところを見らたとしたら―

嫌な汗が頬を伝った。

思い出せ、ちゃんと思い出せ。
影山が恋人じゃないと言ったときの声を表情を―

「月島…影山はそんなに強くないんだよ。
口は悪くても誰よりも傷つきやすいんだってこと…お前も分かってたんじゃないのか?」

ぎりっと奥歯を噛みしめる。
僕は何をしていたんだ。恋人のことを何も分かっていなかった。影山なら大丈夫だとどこか安心しきっていたんだ。それが逆に影山を苦しめたことにも気がつかないで。

「………影山」

僕はいてもたってもおれず影山がいる体育館に足を進めた。
久しぶりに見た顔は泣き腫らしていて、久しぶりに見た猫のように大きな目が僕を捉えていた。

「……ごめん、僕が悪かった…君なら大丈夫だと勝手に思い込んで…君に嫌な思いをさせて…」
「……っ」
「…影山、噂は勝手に―」
「…っでも!!お前が女子と廊下を歩いていたのをっ…俺は、見たっ!!!」

ああ、やっぱり見られてしまっていたのか―
ぎゅっと唇を噛み締めている影山を見て罪悪感と共に愛しさが込み上げてきた。

「だから…お前には、彼女がいるんだって…おも、って……」
「それ勘違いだから。」
「……はっ?」

大きな瞳を更に開きながから間抜けな声が洩れた。

「だから、勘違いで勝手な噂。僕には君以外に好きな人なんていないよ。」
「…だったら、女子と一緒に歩いてたのは…?!」
「先生に日直で頼まれたから渋々だね」
「………なら、本当にかん、ちが…い…?」
「うん。」

さらりと言った僕の言葉に影山は、ぼんと破裂するような音が聞こえるぐらい顔を真っ赤にした。

「うっ…あ…はっず………」

顔を手で隠そうとするが耳までは隠せておらず真っ赤なのが丸わかりだ。そんな行動でさえも可愛いくて仕方がなかった。

「かーげやま」
「っなんだよ…」
「ごめんね。」
「?!!」

まだ赤い頬の熱を隠すように強気な発言をする。
そんな影山を他所に僕は幾分か自分より小さな身体をぎゅっと抱き締めた。

「…噂を勘違いしたのは、君だけど…不安にさせたのは…悪いと思ってるから…
それに君から『恋人じゃない』と言われたのは正直キツかったけど、君にそんなことを言わせてしまって悪かった…ごめん。」
「……せーいが込もってねぇよ…」
「うん。」
「…勘違いして、酷いこと言って悪かった…」
「うん。」
「…っあと!『恋人じゃない』と言ったのは…取り消して…ほしい…」
「当たり前じゃん」

ぎゅうっと握り締めてくる腕を今度は二度と離したくないと思った。


翌日、僕の彼女だと言っていたクラスメイトの女子には色々と言わせてもらった。
女子は真っ青をにしたり真っ赤にしたりと一人で百面相をするが僕の気持ちは落ち着いていた。

「『月島くんに酷いこと言われた』って噂がたってるぞ」
「うん、まぁ…酷いこと言ったしね。」
「何言ったんだよ?」
「知りたいの?」
「んぐ…っまぁ、少しだけ…」

影山の耳元に唇を近づけそっと囁いた。影山は真っ赤にして怒った表情をしているが僕はけらけらと笑い飛ばした。





馬鹿で可愛い勘違い
(僕が世界で一番好きなのは影山だけだから―)



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