短編作成

□喧嘩しました
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あの時の俺はイライラしていたんだ。



【 喧嘩しました 】



週末の金曜日にそこまで目立った取り柄のない所謂強豪校ではない学校と練習試合をした。
だがその学校に1セットを取られてしまったのだ。残りのセットはどうにか取り返せたのだがギリギリの試合だった。

「くそっ……!!!」

木兎は肩に掛けていたタオルをベンチに投げつけ全身でイライラしているのを表している。無理はないだろう。一番スパイクを止められていたのは梟谷のエースである木兎だったのだから。

「……えっと、今日の反省会は明日に回しましょう。なので今日はゆっくり…」
「何で赤葦がまとめるんだよっ!!!!」

大きな声が部室に響いた。
その場にいた部員の動きが止まり、流石の赤葦さえも驚いた表情をしていた。

「俺がこの部活の主将なのに!いつも赤葦がまとめるんだよっ!!」
「おいおい…そこまで言うことないだろう?」
「大丈夫ですよ…慣れていますから」

流石に言い過ぎだと思った木葉がフォローをいれるが赤葦はいつもと変わらない表情で気にしない素振りをする。だがそれに対してイラッとした表情をしたのは木兎だった。
「俺は赤葦がいなくてもちゃんとやっていける!!」
「いや、それはないだろう…な?」
「まあな、木兎は赤葦がいないと駄目だろう…」
「……くそっ!!!」

木兎はドタドタと大きな足音をたてて部室を出ていってしまった。残った部員はいつものことだし明後日にはいつもの木兎に戻るだろうと気にしていなかった。だが赤葦だけ浮かない表情をしていた。

「赤葦?あんま気にすんなよ」
「あ………はい…あのっ…」
「「「ん???」」
「ごほ…すみ、ませ…ごほっ」

咳き込むのを必死に抑えようとするが敵わず咳き込むのを止められない。

「赤葦…お前…」
「朝から調子が良くなかったんです…木兎さんの不調も俺が…悪いんです……こほっ」
「何で言わなかったんだ?!!」
「…す、み…ごほっ…せん…」
「あーもういいからっ!!今日は帰って寝ろっ!!」
「………はい」

小さな声でぽつりと呟くように発した声は思った以上に弱々しいものだった。



次の日、赤葦は学校を休んだ。




* * *

「おー木兎、もう大丈夫なのか?」

猿杙が指す「大丈夫」はいつもの木兎なのか、という意味だ。それに木兎も「おー!俺は最強へいへーい!!」とか言っていつもの木兎だった。

「へへ…赤葦が昨日メールくれたんだぜ!『貴方なら大丈夫ですよ』だって!!」

なるほど、赤葦は家に帰ったあと木兎にメールをしてくれていたのだろう。明日の朝練ではいつもの木兎に戻ってくれるようにと。出来た後輩だな、とそこにいた誰もが感心した。

「で、赤葦は?」
「……あー今日は来てないな…」
「…赤葦にしては珍しいな」

赤葦が風邪を引いているってことを知っているが昨日の夜に赤葦からメールが来た。そこには『明日は休むかもしれませんが木兎さんには言わないでください。心配されるのも面倒なので』というのが来た。

だから皆言わないのだが――

木葉だけが複雑そうな顔をしていたのに誰も気づかなかった。

朝練をした後、いつもは赤葦が鍵締めをしそれぞれ自分の教室に戻るのだが今日は木兎と木葉が戸締まりをすることになった。

「あーあ、赤葦がいないとつまんねぇな…」
「………」
「なんだよー木葉ぁ…お前まで黙りこけてたらつまんねぇだろぉ?」
「木兎…あのな…赤葦は……」

此処で言ったら木兎は間違いなく赤葦のところへ向かうだろう。だが赤葦はそれを望んではいない。普通なら可愛い後輩のお願いを聞くところなのだが…ぐっと拳を握り締め口を開いた。

「赤葦さ…昨日の試合中から体調崩してたみたいなんだ。」




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