短編作成

□出会いのお話
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これはまだ木兎と赤葦が出会って間もない頃の5月のお話――





【 出会いのお話 】








赤葦京治という男を言葉で表すなら冷静、無口、賢い、1年にしては優秀なセッターだ。それにマネージャーが思い荷物を持っていたらさりげなく助けたりする優しさをも持ち合わせている。
だが、俺はそういう赤葦が苦手である。

「木兎はさ、赤葦のことどう思う?」

チームメイトの木葉に聞かれサポーターを足に着けようとしていた手を止めた。

「アカアシって…1年のセッター?」
「お前…部員なんだから覚えておけよ…」
「んーセンスはいいんじゃねぇの?セッターとして優秀で。」

止めていた手を再開させる。

「でも俺は人間としては苦手だな」

そう苦手なのである。
ノリが悪くて、冷静で、どこか見透かされている感じが。

木葉が微妙そうな表情をして口を開こうとしたときガチャとドアノブが回り現れたのは片付けを終えて戻ってきた赤葦だった。

一瞬にして部室内に残っていた者の動きが止まり赤葦をじっと見つめた。
だが赤葦は聞いていたのか分からないが平然とした面持ちで自分のロッカーの前で着替え始める。
聞いていなかったのか…とほっと息を吐き皆、着替えや会話を再開させた。

「……」

赤葦は他の部員とは違い電車通学らしく一人先に帰ることが多く、寄り道に付き合うということはなく、やはりそこにも木兎の苦手意識があるようだ。
だから木兎も電車通学だかわざと寄り道をしたりして赤葦と同じ電車じゃないようにしていた。



* * *


ある日のこと。
今日も木兎は電車を1本遅らせてホームにいた。
だが、いつも早い電車で帰る赤葦がホームのベンチに腰掛けて本を読んでいたのである。

「あ」

思わず声を洩らしてしまい赤葦は本から目を離しこちらを見る。

「……どうも」

ぺこっと一礼をするあたりは礼儀正しいと思ったがすぐに読書に戻った。
確かに自分から話し掛けたようになったが少しは先輩に気を使って話をするもんじゃないの?という疑問がふつふつと沸き上がる。

「ちょっとちょっと…ノリが悪いんじゃないの〜?アカアシくん」
「……すいません」

ぱたん、と本を閉じて鞄にしまう。

「…珍しいよな、アカアシくんとホームで会うなんて」
「……はぁ、今日は参考書を買いに行ったからいつものには乗れなかったんです」
「うぇ…お前、そんなの読んで楽しいの?」
「楽しい、というか必要なことなので」
「俺は読まないけどなっ!!」
「あぁ…まぁ、そうですね」
「まさかの肯定しちゃう感じ?!!」

わっはっはと大きな声で笑う木兎とは違い落ち着いた表情で静かに笑う赤葦。
その顔を見て「赤葦が笑った!」と、子供のように声を上げた。

だが会話が尽きて二人の間に沈黙が流れる。
「……木兎さんも、」

ぽつりと小さな声で赤葦は口を開いた。
ガヤガヤと騒がしいホームでは耳を澄ませないと聞こえないぐらいの小さな小さな声で。

「電車通学だったん…ですね」
「え、あー…まぁな!」
「……」

ふぅ…と小さな溜め息を思わず漏らしてしまった。だけど赤葦から話し掛けてくれて嬉しい気持ちもあった。驚いたせいで間が開いたが…
そんな木兎を赤葦はじっと見つめて何を思ったのか鞄を持って立ち上がった。

「……俺、あっちのベンチに行きますね」
「はぁ?え……なんでっ!??」
「…?なんでって…木兎さん、俺のこと苦手っすよね?」

核心を突かれ思わず黙り込んでしまった。
確かに苦手だけど…そんなに態度に出ていたとは思えない。
だけど俺には心当たりがひとつだけあった。

「もしかして…前の……」
「木兎さん、お疲れさまでした」

いつもの表情で一言だけ言って赤葦は違うベンチを探しに歩いていってしまった。
一瞬見せた切ない表情に胸が締め付けられる思いがした。


あれから赤葦とは喋らない。というよりも挨拶を交わす程度だった。
今まではそれが普通だった。だけど、あの時少しだけ会話を交わしてから普通に笑う赤葦を見て俺は赤葦が気になって仕方がなかった。

「なー木兎」

猿杙がボールを両手に固まっている木兎に話し掛けた。
だが木兎は上の空で他の部員たちもいつもと違う木兎にどうすればいいか手を焼いていた。

「……木兎さん、」
「赤葦…?」

放課後
木兎はいつものように居残り練習をするために体育館に残っていた。それに声を掛けたのはTシャツにジャージを羽織っている赤葦がそこにはいた。

「……すみません、俺のせいで…集中できないんですよね?」
「え?」
「あの時…苦手な俺と話をしたから……」
「ち、違うっ!!!」
「……はい?」
「だからぁ違うってば!!確かに、赤葦のこと苦手だけど………嫌いなんかじゃない!!」

あれ、何で告白じみたことを俺が言ってるんだ。

「………あ、赤葦?」

そろーりと見れば赤葦は口元を手の甲で押さえている。その顔は真っ赤だ。

「……っ何、言ってんすか…ホントに…」
「赤葦!!」

ガシッと肩を掴み赤葦と目が合う。
えーっと…と口のなかでもごもごと口ごもり思い付いた言葉が

「…これから…よろしくオネガイシマス」
「………何で最後だけカタコトなんですか」



出会いのお話
(赤葦ぃー練習に付き合ってくれよ〜)
(…またですか?)



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