短編作成

□馬鹿で可愛い勘違い
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僕と王様が付き合いだして早1ヶ月。
告白してから一度も"好き"と言ったことがなかった、もちろん僕も王様も。まぁ王様がいきなり好きとかデレたら気味が悪いし。でも王様には伝わっていたと思っていたんだ、なんて今更言っても腕の中で泣いている馬鹿で可愛い王様には伝わらないだろうけどね。


【馬鹿で可愛い勘違い】


「月島」

その人物が声を出した瞬間、昼食のときで騒がしかったクラスが静かになった。
名前を呼ばれた僕は皆の視線を浴びながら弁当を持ってドアのところにいる人物のところへ足を進めた。

「珍しいね、王様が迎えに来てくれるなんてさ」
「…うっせぇな」
「まぁいいや…行こうか」
「……おぅ」

今だ視線を浴び続けている僕は王様の背中を押して教室から離れた。





僕たちは皆にバレないようにと、細心の注意をはらいながら付き合っている。昼食になったらどちらかが(主に僕が)迎えに来て、それから体育館の近くの場所でこっそりと食べる日々を続けていた。(ちなみに部活の人たちには付き合っていることは伝えている。)
でも特に話すことなんてなく黙々とご飯を頬張り、そして少し会話を交わすだけだったが側にいるというだけで安らいだ。これが本当に好き、ということなのかは分からないが恋人らしいことをしてなくても僕は幸せだったんだ。


だけど、ある日
僕が王様以外の人と付き合っているという噂が広がっていると山口から聞いた。

「どうすんの、ツッキー!!」

一人であわあわと慌てている山口を軽く睨むとすぐにいつものように「ごめん、ツッキー!!」と謝る、と思っていたが今回は違うらしく机を思いっきり叩かれた。

「早く影山に言わないと誤解されたままになるよっ」
「……誤解も何も、王様が信じるわけないじゃん」
「…………ホントに言ってるの?」

え、なに、その沈黙…ていうか山口が大きな声を出すからクラスの視線が痛いんだけど…

「…ツッキーって恋人のこと、何も分かってないの?」

と言われてしまえば僕のなかで何かが切れた音が聞こえたような気がした。
言われっぱなしは性格上、嫌だし山口が僕をキレさせるようなことを言ったのは本当だから怒ってもいいよね?

「なに?何が言いたいの、山口」

いつも僕が睨めば怯える山口なのに今日はどうして、こんなにも引き下がらないの。

「ツッキーが!影山のことを、分かってないから言ってんじゃん!!」

僕が、王様のことを




分かっていない―?





* * *

僕の何が王様のことを分かってないというのだろうか。
山口は「ツッキーの鈍感!」と言ったきり休み時間には訪れなかった。珍しく山口が僕のことで拗ねてしまってから僕は山口に言われた言葉を考え出したが一向に分かる気配はしなかった。
そのまま昼休みに突入し、僕はいつものごとく影山を迎えに行ったが

「え?影山はさっき日向が連れてったけど」

と言われてしまった。
いったい何なのだろうか、山口も日向もそして王様も。

まぁ…いいや、今日ぐらいは一人で食べよう、そう思って教室に足を向けた。
このときに僕が王様を追っていけば王様に勘違いされることなどなかったのに―


* * *


キーンコーンカーンコーン…

6時間目が終わるチャイムが鳴った。
うつらうつらとしていた数名が慌てて起きるのが視界に映る。

「…っと、悪いが今日の日直はこれを資料室に返しといてくれ」

………っげ、今日の日直って僕じゃん最悪。
早く終わらせて部活に行こう。

「月島くん!私も日直だから手伝うよ」
「あぁ、ありがとう」

表面の顔で笑えば女子は何を思ったのか「当たり前だよ。彼女なんだし月島くんをサポートするのは彼女の役目でしょ?」と言った。
ちょっと待て…おかしな言葉が聞こえたような…疑問をもち聞いてみる。

「…君が?いつ、僕の彼女に?」

そう聞けば彼女は悲しげに顔を歪めた。

「…月島くんが言ったんだよ?彼女にしてくれるって―」

はぁ?本当に何を言ってんだ、この人は。
だけどこういうタイプは色々と面倒なタイプだ、もう少ししとけば彼女は振ってやったとか言って僕と別れたように話を作るだろう。なら、あんまり関わらないで終わらせればいいだけの話。
僕はそれっきり無言で廊下を歩いた、隣から煩わしい声を聞きながら―
だからこのときの僕は相当呑気だったと思う、まさかこれを見られてるなんて思ってもなかった。


* * *


今日の部活は何故かやたらと日向や先輩たちに睨まれていた。当の影山はというと僕には目もくれず黙々とサーブ練をしている。

「影や「影山ー!トスをあげてくれよっ」

いらっ
絶対さっきのはわざとだ。わざと僕の声に被せたに決まっている。
だってこっちをちらりと見ている日向がいるのだ。
しかもあからさまに睨んでいるし敵対視を向けているのだから。

こうして僕は部活中に影山に話しかけることすらできなかった。
しかも2、3年生も絡んでいるらしく徹底的に引き離された。
だけどそれで引き下がる僕ではない。

放課後
影山が一人になるのを見計らって声を掛けた。

「王様」
「………なんだよ」

あぁ、1日聞いてないだけなのに随分久しぶりに感じられる影山の声。

「ねえ、王様」
「〜っだから!!何だよっ!!!」
「そう言うなら逃げないでよ」

何故か僕から逃げようとする影山の腕を掴み逃げられないようにする。
月島は自分でも細身だと思っていたが影山の方が以外と細い。まあ、身長的に言えば自分の方が高いし。

「………ちっ」
「うわ、久しぶりの舌打ちだね」
「……うっさい、黙れ眼鏡。割るぞ。」
「ちょっとー?彼氏に向かってその口の聞き方はないんじゃない?」

彼氏―
そう、僕たちは恋人同士なのだ。
なのに何故か今日は胸騒ぎがする。普段は恋人と言っても何も感じない、というより嬉しさを感じるというのに―

ぴくりと影山が恋人という単語に反応を示したが辛そうな表情で残酷な言葉を吐いた。

「恋人?何、言ってんだよ…俺たちは恋人なんかじゃないだろう?」
「…………っは?」
「つか、お前でも冗談とか言うんだな」

影山が笑うが僕は笑う余裕なんてない。いつも影山に「お前、余裕そうでムカつく」と言われていたのに、柄にもなく焦っているんだ、この僕が。

「そんなこと言うために、呼び出したのかよ」
「王様は、さ…僕とは遊びだった、って言いたいの?」
「あ…遊びも何も…俺たち付き合ってねぇだろ?馬鹿じゃねぇの?」

影山に言われた言葉がぐるぐると頭の中で回って気持ちが悪い。
影山の言葉が信じられなくて…信じたくなくて…僕はこの時ほど余裕をなくしたことなんてなかったと思う。いつもなら冷静に考えれば分かることなのに、影山の表情をちゃんと見れば分かったかもしれないのに―


「なら、僕たちの関係は遊びだった―君を恋人だと思ってたのも僕の独りよがりだったてことだね」


僕は舌打ちをし、床に落ちてるタオルを拾って部室を後にした。
そのとき、影山がどんな表情をしていたかなんて俯いていたせいで見えなかった―











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