短編作成

□アナタは嘘吐きだ。
1ページ/2ページ

「サトシ…大丈夫?」

あたしの何気ない一言。

それに驚いたサトシは歩くのを止めて振り返った。

しばらくの沈黙。

あたし達の間に風が吹く。

あたしの髪は横向きになびく。

サトシは帽子が飛ばないように片手で抑える。

風が止んだ後もあたし達は一言も喋らない。

だけど、サトシはにっこり微笑み「大丈夫。」と一言だけ残し歩き出した。

あたしは何も言わずサトシの後に続き歩き出す。

それから数日後サトシはビルの上から飛び降りた。


あの時の笑顔は何だったんだろう?

あの時の笑顔は何を示していたのだろう?

あの笑顔は無理して作った笑顔だ。

きっとサトシは何かに苦しんでいたんだ。

あの笑顔はあたしに救いを求めていた最後の笑顔だったんじゃないのか――?

でもアナタは何も言わずにあたしの心の中に疑問だけを残して消えた。

前、あなたは言ったよね?

”嘘吐きは良くない。言いたい事ははっきり言う”

って…言ってたよね?

じゃ――アナタは?

あなたは何一つ言いたい事を言わずにこの世から消えたじゃない。

あなたの言ったことは嘘じゃない。

嘘吐き…嘘吐き…アナタハウソツキダ。


でも、あなたは笑顔であたしにもう一つ教えてくれた。

”この世には優しい嘘もあるんだぜ?大切な人に傷ついて欲しくないために嘘を吐く時だってあるんだ。”

と、教えてくれた。

あなたは、あたし達に何も言わなかった。

あの笑顔はあたしに傷ついて欲しくないための優しい嘘?

今、あなたが生きていたら聞けたのに…

この世にもう存在しないあなた。

今ではもうあなたに問いかけることも出来ない。

あなたにあたしの声はもう届くことはない。

あなたの言葉から真実は聞けない。


この世に優しい嘘なんて存在しない。

だって、あなたはあたしの心の中に大きな傷を残したのだから。



アナタは嘘吐きだ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ