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□不器用なキス
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「お、今日は暖かいなあー」

「そうッスねえ・・・」



お昼休みの屋上
ここで先輩と、後何回こうしていられるのだろう

あと一月もすれば、先輩は卒業する
それまで、ここでの思い出たくさんつくろう

そう思ってお昼は一緒に食べる約束をした
数えてみたらあと20回くらいしかない

その間には、嫌なテスト期間もある
先輩達は3年生だからテストは無いけれど、俺達在校生は半日だけテストを受けにって午前で帰る、というスタイルが5日も続く

その期間中を抜いたら、あと15回だ



横目で先輩をみると、珍しくコンビニのおにぎりのビニールを開けている


「今日はコンビニなんスね?」


「ああ、今日は母さんが寝坊したって」


「へえー」




なんでもない会話

この時間が、空間が、好きだ
先輩といられるこの場所が、好きだ

ここにいられることだけでも、十分幸せだ
けれど、俺達は男同士とはいえ、付き合っている
やっぱり、付き合う、ってことは、それなりにそれなりなこともしたい




何度かそんな雰囲気にはなったことがあった

お互いの部屋に行ったときなんて、絶好のチャンスだ


でも、お互い照れて言い出せず、今に至る



俺達は、変なところで似ている


お互いを探り合うように、確かめ合うように接する



いやじゃないかな

先輩、今楽しいかな



なんでも先輩が優先だ
きっとそれは先輩も一緒

俺がやりたいように、やりやすいようにさせてくれる

お互い遠慮し合って、結局何も出来ずにいるんだ



「黄瀬、あのさあ」


喋り出すにはまだ十分でないおにぎりの詰まった口をいったん空にして、先輩は俺に尋ねる


「お前、いっつも俺を優先するだろ?」


「はあ、そうッスね・・・?」


唐突にそんなことを聞かれて、なんと答えたらいいのか


「それが、なんスか・・・?


「いや、じゃあさ、俺がしたいけどお前がしたくないこととかだったらさ・・・お前、どうすんの?」


「え・・・?」


先輩がしたいけど俺がしたくないこと・・・?
考えても考えても、出てくる答えはただひとつ



「俺と・・・別れる、とかッスか・・・?」


俯いて弱弱しくそう尋ねる
しばらくの沈黙があり、ああ、これは確信か、と自嘲する



「そうッスね・・・まあ、別れたくはないッスけど、先輩がそうしたいなら・・・」


「ちげーよ!!バカ!!」


先輩は、俯いていた俺の顔を強引に自分の目の前に引き寄せ、俺の目をまっすぐに見ている
いつもの先輩なら、少しでも俺に触れただけで顔が赤くなるのに、そんなことも忘れているのか、俺をまっすぐに見つめている


「そんなことじゃねえよ・・・!つーか、お前と別れるとかありえねえし・・・」


「じゃあ、なんなんスか・・・?」


聞きたくないけど、そう尋ねる

すると、今度は先輩が顔を俯かせて小さく呟いた



「き・・・キス・・・とか、お前、したい?」


「・・・はい?」


「だから・・・さ、キス」


「え、えええええ?キ、キスッスか?!」


「うん・・・」


そりゃあ、したかったけど!
ずっとしたかったけど!我慢してたんだよ!先輩のために・・・って



あれ・・・



これって、先輩もしたいってことだよな・・・?
それで、俺もしたいんだよな・・・?

それって、つまり、お互いが遠慮してるだけ・・・?



「あの、先輩」


俯いている先輩を、今度は俺が俺自身の目の前まで引き寄せる


「俺が、ずっと、ずっと、キス我慢してたの、知らなかったんスか・・・?」


「え・・・?」


先輩は、戸惑いを隠せない様子で、目を回している



「俺も、したいんス。先輩と、キス」


「え・・・あ、おう、そうなんか・・・」


「だから、してもいいッスか?」



返事は、聞くまでもない

先輩はゆっくりと目を閉じ、顔をこちらに向けた
俺は、それに従い目を閉じ、先輩の方に顔を近づける



「ン・・・っ」



先輩がうっすらと声を漏らしたのが聞こえ、今、先輩とキスしてるんだ、と実感する



「先輩・・・好きです」


「俺も・・・涼太」


「え?!今なんて言ったッスか?!」


「なんでもねえよ!」




先輩を抱きしめ、もう一度唇を奪う

ああ、なんて、不器用な恋愛なんだろう

お互いを想いすぎてお互いのしたいことを見失うなんて



それでも、こんなに幸せな気持ちになれるのなら



こんな恋愛も、悪くはない




end






フリーということなので頂いてしまいました//

あぁ…!!笠松センパイが可愛い過ぎて…っ

ホントにこんな素敵な小説を頂けて嬉しいです。

ありがとうございます。

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