長編作成
□You Loved The World
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「シゲル君、この研究結果なんだけど」
昔から自分を知っていた人物は博士となった今でも自分のことをシゲル君と親しみを込めて呼んでくれていた。
「あぁ…これは……」
「なるほどね、分かったわ。流石ね、シゲル君」
ふふ、と微笑んで書類を持って室内を出ていった。
はぁ…と小さな溜め息を洩らしギシっと椅子に深く座り込んだ。まだまだしないといけない研究は多く残っているから休んでいる暇なんてない。
自分は博士へと出世した。
7年前は研究者だったが今はオーキド博士の名前とオーキド邸を継ぎ博士をしている。
オーキド・ユキナリの孫子というので博士となったわけではないが、やはり世間からはそのような目で見られている。だが、最近は少しずつだが自分のやり方が認められるようになってきた。
そして、シゲルの祖父オーキド・ユキナリは引退し今はシンオウ地方の別荘で隠居生活をしている。たまにマサラにある研究所(今はシゲルが継いでいる)に来ては未来の優秀な研究者に指導という名の川柳を教えている。
それも前までは川柳ではなく研究について教えてくれ、と言われたがオーキドなりに川柳を教えているのも理由があるようだった。
「お祖父さん、またいらしたんですか?」
「そんな嫌な顔をするな、相変わらず可愛げがないの」
「僕に可愛さを求めるのが間違っていますよ」
そう言いながらも偉大な博士が自分の祖父というものは誇らしいものであった。
表ではそんな風に突っぱねているが、尊敬はしているつもりだ。
「シゲル、いるー?」
こんこん、とノックして現れたのはヒカリだった。
「あ、オーキド博士もいらしてたんですね!」
「やあやあ、ヒカリ君。活躍はテレビで見ておるぞ」
「えへへ…ありがとうございます」
ヒカリは今から3年前にグランドフェスティバルで優勝しトップコーディネーターとなり名を馳せていた。その1年前にハルカがトップコーディネーターとなり二人とも人気が高い。
「あのね、シゲル。有力な情報が手に入ったわよ」
「本当かい?聞かせてくれ」
「私の知人がホウエンでサトシらしき人を見たらしいの。ピカチュウを肩に乗せていて傍にいたポケモンはリザードンとオオスバメ。
ね、サトシのポケモンにもリザードンとオオスバメいたわよね?」
「あぁ…肩に乗ったピカチュウというのも滅多にいないからサトシかもしれないね…」
顎に手を当てて少し考え込む。
「よし、次はホウエンに行こうと思う。ヒカリはどうする?」
「私も行くわ。あと知人を紹介するね、その人もサトシを探してるから…」
「分かった、ホウエンならマサトとハルカにも声を掛けてみよう」
姿を消した大切な仲間であるサトシを捜し続け7年の歳月が流れてしまった。
サトシの仲間だった人達はそれぞれ夢を掴んでいた。
サトシと長年一緒に旅をしてきたタケシはポケモンドクターとして世界を飛び回り、ホウエンを一緒に旅をし、サトシに憧れを抱いていたマサトは父の後を継ぎジムリーダーに、カスミは水ポケモンマスターとなって今もハナダジムのジムリーダーとして活躍をしている。
だが、夢を叶えたとしてもそこには大切な人の姿はなかった。
皆の夢が叶い一番喜んでくれるサトシの姿はなく、僕やヒカリ、タケシの心の中ではサトシへの思いが消えることはなかった。
7年前、心身共に傷ついていたサトシに更に追い討ちをかけたのは僕たちだった。
気づき、謝ろうとしても既に遅く――
サトシは僕たちの前から姿を消してしまった。それから僕たちはサトシを捜しつつも自分の夢を叶えた。
「シゲルー私はハルカに連絡をとるね…絶対にサトシを見つけようね」
「……そうだね、絶対にサトシを見つけよう」
準備してくると言い残しヒカリは部屋を出ていった。
「次は…ホウエン地方に行くのか?」
「…はい、今度こそサトシと話をします」
それだけを言ってシゲルも自室へと戻った。オーキドはシゲルの後ろ姿を見ながらぽつりと呟いた。
「…気をつけてな、」
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