長編作成

□You Loved The World
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第1章 今、この間を






ザアァァ―

草木が揺れて大きな音をたてる。
葉の隙間から木漏れ日が差し込み隣で寝ているピカチュウが眩しそうにしている。微笑み自分のパーカーをかけて日除けがわりにすると顔が和らいだように感じられた。

『ピ…』
「あ、悪い…起こしちゃったな…もう少し寝てていいぞ」

ゆっくりと撫でてやるとくすぐったそうにしているピカチュウを見てまた笑みがこぼれた。

「……オオスバメ、見張りありがとうな」
『スバッ』
「もう少し見張っててくれるか?」
『スバー!!(任せろ!!)』
「ありがとうな、」

ふんわりと微笑む。
こうやって見張ってもらわなければゆっくりと休むことすら出来なくなってしまった。"仲間"の下から姿を消してもう7年の歳月が流れる。その間にサトシは大きく変わっていた。変わらなくてもいいところまでも変わり、昔馴染みの人なら間違いなくその変わりように驚くだろう。

(暖かいな…)

寝転がったところは太陽の日差しを受け暖かさが背中から伝わる。

7年前に負った心の傷は大分癒えたものの、ちょっとした拍子に思い出し発作を起こすこともある。だが、それも昔ほどではなくなった。今は大切なポケモン達と共に旅をしている。
昔がどんなだったとかサトシには関係ない、7年前のことは棄てた過去なのだから―

(…思い出しちゃ、駄目だ)

ガバッと上半身を起こし太陽を睨み付けた。

太陽のある光を歩くことをやめて7年だ。
夢を諦め、暗闇を歩くことを望み自らの足で進んだ。
昔の"仲間"なんて今の俺には不要なものでこれからも必要ではないもの。
もう、誰も信用しない、信頼しない、望まない―全て自分の手で片付ける。
仲間はポケモンたちだけで十分だ―

「オオスバメありがとう、リザードン君に決めた」

たとえ見た目が変わっていようと昔から使っている口癖はそう簡単には変えられない。モンスターボールから赤い閃光とともに出てきたのはサトシのポケモンのなかでも最強と言われているリザードン。

「次の街まで飛んでくれるか?」

リザードンの首元を撫でてやるとグルルと喉が鳴った。

「頼むぞ。
ピカチュウそろそろ行こう、"あいつ"らに見つかる前に…」
『ピーカ…』

まだ少し眠たげだがぴょんと地面を蹴ってサトシの肩に乗った。

「できるだけ、高く飛んでくれ」
『ガウ』

ばさり、ばさりと羽を広げ飛び立つ。
こうして見つからないように幾度も移動してきた。
"あいつら"の動きはムクホークとオオスバメに任せ、極力自分の力が相手に見られないように。

(だけど…そろそろ、か…)

そろそろ"あいつら"の誰かとは遭遇するだろう。
できるなら、昔馴染みとは会いたくない。

『グルル…(大丈夫だ、俺が絶対にお前をあいつらには会わせない)』

触れた場所からリザードンの声が聞こえた。

「はは…頼もしいな、ありがとうリザードン」
『ガアア!!!』
「あーもう、そんな大きな声を出すなよな」
『ピーカピカ』




大丈夫、ポケモンたちがいれば怖くない。






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