■ ノベルス ■

□RUN
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一歩ずつ近づく白線は真夏の陽炎のように歪む。
タッタッタッ…
後ろから短く早い間隔で足音が近づいてくる。すぐに耳元まで迫ってきた。死神は首筋に鎌をかけ、熱風の吐息を吹き掛ける。
勝ちたい、俺は…
ぐっとアゴを引いて胸を張り、正面を見据える。黒い影が隣に並ぶ。体にまだ力が残っているのなら全部搾り出せ。
俺は最後の一歩を踏み出す。一滴残らず力を注いで。
フッ…
胸の前で何かが切れた。白いテープが地面に熔けるように触れた。
パンッ!
乾いた音がして横で撃鉄が下りる。唐突に大音響の声援が耳に飛び込んできた。忘れられていた熱い鼓動が胸を鳴らす。大きな電光掲示板の一番上に俺の名前が表示された。
やった…
急に体の力が抜けて、トラックの真ん中に背中から倒れ込む。
どこまでも青い空が大の字になった俺の上にやけに眩しく広がっていた。
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