■ ノベルス ■
□きつね火の夜に
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ちりーん、ちりーん…。
金の音はだんだん近づいてきました。ゆっくり、ゆっくりと家の前を通り過ぎようとします。
秀は勇気を出して窓に近づきますと、カーテンを少し開けて外を見ました。何か白い物が見えました。秀は「あっ」と言葉を飲み込みました。
何か“白い物”だと思ったのは、狐のお面だったのです。真っ暗闇の中に、たくさんの狐のお面がうようよ浮いているのです。しかも、もっと恐ろしいことには、狐には胴体がありませんでした。首から下は闇に溶けたように見当たらないのです。
秀は、怖いのをぐっと飲み込んでもっと全体を見渡しました。
道路の右側を進む狐には目元に青い隈取り、左側を進む狐には目元に赤い隈取りが目元に入っています。それに、青い隈の入った狐の手元と思われる高さには小さな行燈が灯りを点していて、赤い隈の入った狐の手元と思われる高さには、仏壇で鳴らす鐘が浮かんでいるのが分かりました。それと一緒になって浮かんでいる細くて短い棒は、ある一定の間隔をおいて鐘を鳴らしています。
秀は背筋にゾーっと寒気がするのを感じました。それでも金縛りにあったみたいに窓から目を離すことができません。
狐たちは、そんな秀の視線にはまったく気付く様子もなく、町の方へゆらゆらと進んでいきます。
それにしても、なんて長い行列でしょう。下の方へ目を走らせますとずっと先まで続いていますし、上の方へ目をやりますとまだ六組ほど後が詰まっています。
(ようし、どこまで行くのか後をつけていってやろう)
秀は剣道部の友達にときどき稽古をつけてもらっていますから、腕には少し自信がありました。
でも、こんなことをして本当に大丈夫なのでしょうか。