■ ノベルス ■

□とびらの向こう
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   2.友達
 教室に入ると、遅刻常習犯のはずのヒデユキがいたので驚いた。
「いいだろ別に。今日はこういう気分だったんだ」
 そういうことらしい。ヒデユキは頭の寝癖を指で構いながら、むすっとして言った。こいつとは高校からの付き合いだが、なかなかにしてこういうことがある。
「ときに、英語の宿題やったか?」
「あ〜英訳ね。早く来たらやったら暇でさ、何にもしてないと死んじまいそうだったからやっちまったよ。ホトホト、朝早くなんて来るもんじゃないと思ったな」
 何がホトホトだろうか。それにしても珍しいことが続くものだ。
「いま、空から槍でも降ってくるんじゃねえかと思ったろ」
 ヒデユキはビシッと人差し指を立てて笑った。
「思っちゃいないよ」
 似たようなことは思ったが。
「単純だからすぐ顔に出るんだよ。オマケに、何か隠してるとみた」
 ヒデユキはさらにズズイと指を突きつけた。今日は一体どうしたというのだ。怖いくらい頭が冴えている。沈黙は敵、だ。
「さあ。秘密はいくつか持ってはいるが、生憎お前に隠すような話は雀の涙ほども持ち合わせてないぞ」
「そんなことはどうでもいいんだよ」
 なら聞いてくれるな。それに、あんな不法侵入まがいのこと、おいそれと話せるわけがない。
「秘密なんてものはな、いつかは儚く散ってしまうものだ」
 ヒデユキはやけに難しい顔をして頷いた。
「だから言っちまえって!吐け〜楽になるぞ〜、カツ丼食うか〜」
 いつもなら昼から高まるテンションが、早々に臨界を越え始めている。これは危険だ。
ヒデユキの勢いに乗せられて降参半分、口を開きかけたその途端、くぐもった音のチャイムが授業の開始を知らせ、先生が教室に入ってきた。そそくさと教科書を机にしまっていると、ヒデユキの恨めしそうな声が空中で糸を引いた。
「後でなぁ」
 くわばら、くわばら。
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