ウルトラマン闘牙

□第1話「光の継承者」
2ページ/9ページ

「ずっと、俺は美雪が好きだった。いつの頃からだったかは忘れたが、気付いたときにはそうなっていた。あいつの笑顔が、俺を支えていてくれた。特訓に明け暮れて傷だらけになったときも、参観日に母さんの姿が消えたときも、あいつはいつも元気をくれた。傍にいてくれるだけで嬉しかった。だから、自分の気持ちに正直になろうと思えた」
 大輔は、たじろぐ隼人を尻目に続けた。何の迷いもない目線は、海のむこうの水平線に向けられている。
「お前もあいつを好きなのは、ずっと前から知ってたさ。分からない、って奴のほうがどうかしてるぜ。あいつと話すお前は、水を得た魚みたいにイキイキしてた。なんて言うか、漫画にでてくる、夢を追いかけて止まない主人公みたいなんだ。傍から見てもおかしかったな。それになあ、俺と美雪が楽しそうに話していたらなんだ?おもちゃを取られた子供みたいな顔しやがって、まるで俺が悪者みたいだったじゃないか」
 隼人は話を聞いている内に、胸の中に小さな火が芽吹くのを感じた。最初は、それこそ小さなものだった火が、燎原の火のように燃え広がっていった。やがてそれは、抑え切れない炎へと変わり、隼人の感情を支配し始めた。
「・・この野郎、よくもまあ抜け抜けと」
 自分で言った言葉に、隼人自身驚いていた。しかし、もう止めることはできなかった。
「文句があるならかかってこいよ。それとも、俺が怖いのか?」
大輔はこれも予想の内だったのか、すまして切り捨てた。それが、隼人の神経を逆撫でした。
正直、力技で大輔に勝つ自信はなかったが、スピードでは負ける気がしない。しかし、持久戦に持ち込まれたら不利になるのは目に見えている。瞬発力を生かして攻撃をかいくぐり、一気にカタをつけるしかない。
「オラァァー!」
 隼人は砂を蹴り上げながら大輔に迫った。足の筋肉に力が漲っていくのを感じた。
「そんなんじゃ、蝿でも肩に止まるぜ」
 気付いたときには遅かった。大輔の声が背後から聞こえた。隼人が振り返る間もなく、重いブローが飛んできた。重い、重い一発だった。そして、隼人には分かった。
―しかも、まだ本気は出していない。
隼人は大輔の懐にもぐり込んでアッパーを繰り出そうとするが、難なく避けられて、逆に強烈な左フックを浴びた。
唇が切れて、口の中に鉄っぽい味が広がった。隼人は口を拭わずに叫んだ。
「お前はあいつに対しての自信がないんだろ。だから、俺を倒して自身をつけようとした、そうだろ?最初から自信があるなら、俺なんかに構わないでさっさと告白してるはずだ!」
 また、重いブローが飛んできた。
「お前は、何も分かちゃいねえ!」
 隼人は苦痛に顔を歪めながら、体をくの字に曲げた。吐きそうになるのを必死で堪える。
「何が“さっさと告白してる”だ。俺に自信がなかったなら、同じ想いを持っているお前に、打ち明けるわけがないだろうが!俺は、お前をライバルだと認めていたから、負けたくないと思っていたから話したんだ。抜け駆けってのはなあ、一番汚い、臆病者のすることなんだよ!」
 隼人は顔面に向けられた拳を紙一重でかわすと、すれ違いざまにカウンターのストレートを大輔の米噛みに打ち込んだ。きつく大輔を睨む。
「お前の言いたいことは、よく分かった。告白したいならすればいい。だがな、ならなおさら、俺はいまお前に勝つ!」
大輔はしばらくの間、黙って隼人を見据えていたが、ふいに笑みを見せた。それは、余裕からくる笑みとかそういう類のものではなく、心から滲みでる嬉しさの笑みだった。
「・・いくぜ」
「こいや」
 二人は一時の静寂のあと、いつも剣道でやる倍の気合を入れて叫んだ。ぐっ、と腹に力を込めて腹の底から大声を出すことで瞬間的な爆発力を増すことができる。砂に足をとられて上手く走れないが、それは相手も同じことだ。
隼人は、右手に握りこぶしを作った。手の親指で支えるようにして、他の指でひし形を作る。こうすることによって少々指を痛めるが、打撃によるダメージが追加されるのだ。と、これは先輩のうけ売りだが、今はやらないよりやった方がいい。
走り出した途端、大輔の目がギラリと危険な光を放ちだした。目の前に立ち塞がる相手はみな打ち倒す、鬼のような禍々しさがあった。薄暗い月明かりの中で、それはいっそう不気味だった。―あの目は、本気だ。
隼人の頬を冷や汗が伝った。が、それが乾かないうちに体中が熱くなり、向かってくる相手のことしか考えられなくなった。熱で頭がぼーっとしてきても、それは変わらなかった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ