■ ノベルス ■

□RUN
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苦しくて脇腹が痛くて自然に足が動かなくなる。鼻から息を吸い込むたびに痛みが襲ってきては走る気力を失わせる。
口の中はカラカラに干からびていて生唾さえ出せない。
目で見えるものがぼやけてきて足が土を蹴っているのか、動いているのかも分からない。
ただ刻々と変わっていく視界だけが確かに進んでいることを教えてくれている。
染み出す汗が白いTシャツに滲んで肌に張り付く。
足に力を入れると同時に腹が痛みだして、回数を増すごとに重く鋭く身体をえぐっていく。
歩け、歩いてしまえ。
自分の声がする。弱い小さい自分の声につられてだんだん足が鈍くなってくる。
もう限界だ、勘弁してくれ。
体中の細胞が悲鳴を上げる。
ぼんやり何かが見えてきた。白い…線?
急に目の前がくっきりしてくる。毛穴という毛穴がぞわぞわと開いて、さっきとは別の汗が吹き出す。身震いするような高揚が体を包む。
もういい、後先のことなんて考えるな。
最後のコーナーを曲がる。
今しかない、今しかないんだ!
歯を食いしばって、思い切りスパートをかける。
今だかつてない苦しみが五体を切り裂こうとする。ただ前に、ひたすら前に。
右足が痙攣を起こす前触れを告げ、膝が折れかかる。
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