ウルトラマン闘牙

□第1話「光の継承者」
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第1話「光の継承者」

月のきれいな夜、浜辺を歩く少年がいた。
名は東城隼人。ジーパンのポケットに手をつっこんで、浮かない顔のまま足元を見ている。ときどき、砂から平べったい石を掘り下げては海に投げ入れる。
パシャン、パシャ、パシャ・・・
凪の海に、石はたいした水切りもせず、すぐ見えなくなった。
彼の親友である玄内大輔が蒸発してから、早半年が過ぎようとしていた。
大輔とは幼い頃からの付き合いだった。人一倍正義感が強く、触れれば火傷してしまいそうなほど熱い奴で、よく喧嘩もした。特に中学三年の夏、同じく幼馴染である姫松美雪をめぐった殴り合いは激しかった。
隼人と大輔と美雪は、家が近いのもあって小さい頃から仲がよかった。大輔の母親が亡くなるまでは、よく家族ぐるみで旅行もしていた。しかし大輔は、母親が亡くなってから人が変わったように大人っぽくなった、というか精神的に強くなった。そして自ら強さを求めるようになり、剣道の道場を開いていた父親に指導を受け始めた。そのとき、わずか七歳。
隼人は、大きく変わっていく大輔にコンプレックスを持つようになっていた。小学校高学年になって、美雪に“友達”から一歩踏踏み出した感情を持つようになって、意識しだしてからはそれが嫉妬に変わっていった。
初め、変な感じがした。小五の夏休み明けだったと思う。話すだけでドギマギして美雪の顔を直視できなかった。見えない壁が喉の奥に張り付いているみたいで、うまく喋れなかった。そんなとき、平然と美雪と話している大輔を見て、正直悔しかった。心臓をわし摑みにされたような気持ちがした。それでも、少し経ってみればいつもの自分に戻れていた。
―そう、あのときまでは・・・

中三の夏、隼人と大輔は部活の帰り道、いつものように浜辺を歩いていた。中学校から家まではここを通ったほうが近道なのだ。空には、三日月の貧相な顔しかなかった。ざくざくと砂を踏む音が耳に心地いい。
「今日もきつかったな。でも、やっぱお前は強いよ。今年は全国優勝も目じゃないな」
隼人は大輔に影響されて剣道部に入っていた。
大輔は、帰宅してからも父親に特訓を受けているせいかメキメキと力をつけ、去年の全国大会では個人で第三位だった。小学校の頃も強かったが、今では“強い”を通り越して言いようのない“怖さ”を感じるようになった。一度大輔と剣を交えた者なら分かるはずだ。面の中に覗く、あの鬼のような闘志を。スポーツという枠の中ではあまりに窮屈な力、世が世なら戦国の覇者になっているかもしれない。
「・・・」
今日の大輔はおかしい。一日中黙り込んでいる。話しかけても「ああ」とか「うん」とか、最高三文字しか続かない。へんなヤツだ。何か言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいのに。
「そういえばさ、明日、美雪の誕生日だったよな。まぁ、いい年なんだしこういうのも恥ずかしいといえば恥ずかしいけど、今年は何を用意してるんだ?」
気まずい雰囲気を、少しでも紛らわそうとして話題を変えてみた。『美雪』という単語が出たとき、今まで無表情だった大輔の眉がピクリと動いた。
「・・何も」
「えっ!だってお前、毎年・・」
大輔は鉛のように重い溜息を吐いた。ふいに夜空を見上げた。浜辺の砂は夜露の湿り気を帯びていて、それを月明かりが頼りなく照らしていた。
「俺、明日、美雪に告白しようと思うんだ」
一瞬、躊躇した後、大輔はやけに清々しく話しだした。
「・・なっ?」
隼人が大輔の言葉を理解するのに、ゆうに十秒はかかった。
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