捧げ物
□カーテンを開けるとそこは雪国でした
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「うーん……」
何時もより冷えた空気に、ふわふわな布団の中から呻き声が漏れる。
どうやら、余りの寒さに目を覚ましたようだ。
呻き声の主はのそりと起き上がると、閉めていたカーテンに手を伸ばした。
【カーテンを開くとそこは、雪国でした。】
「エースっ!!!サボっ!!!」
壊れんばかりの勢いで開かれたドアに、動かしていた手を止め、目を向けると、何やら目を輝かせたルフィがいた。
「おはよう。ルフィ。」
「おはよう。ルフィ。今日は起きるの早いな?」
朝食の準備をしていた俺と、ソファーにごろりと寝転びながらテレビを見ていたエースが、愛しい弟、ルフィに笑顔を返した。
「おはよ!サボ!エース!それより、外!!雪だ!!雪が積もってる!!!」
ルフィの言葉に窓の外を見ると、気にしていなかったので、気付かなかったが、確かに膝下くらいまでの雪が、道路や周りの家の屋根に積もっている。
そういえば、昨日ニュースで降るとかいってたかなぁ…?と考えを巡らせながら、うずうず落ち着きのないルフィへと視線を戻した。
「なぁ、外行ってきていいか??」
「駄目だ。もうすぐ朝飯だから待ってろ。」
予想していたのであろう質問にすかさずエースが返すと、ルフィから、えぇ〜。っと不満そうな声が上がった。
「でもよぉ、早くしないと溶けちゃうだろ?」
不満の色で一杯の可愛いらしい目を、ちらちらと窓の外の雪へと向けるルフィ。
実際膝下くらいまでの雪が積もっているので、そう簡単には溶けることはないのだが、きっと早く雪の中を駆け回りたいのだろう。
ルフィが、俺の方を向いた。
「なぁ、サボ、いいだろ?少しだけだからさっ!!」
お願いっ!と自分の顔の前で手を合わせ必死にお願いするルフィを、可愛いなぁ。と思いながら、どうしようかなぁ。と少し考えるような仕草をしてやる。
そうすると決まって、ルフィは、不安そうに見つめてくるものだから、可愛いったらありゃしない。
だから、大体俺はルフィの我儘を許してしまうんだ。
エースに、甘やかし過ぎだ、と怒られるけど、可愛いんだから仕方ない。
「少しだけならいいよ。」
「本当か!!!サボ大好きだ!!!」
ルフィが駆け寄って来て、ぎゅっと嬉しそうに抱きつくと、手近にあった上着を掴み、すぐさま外へと飛び出していった。
ルフィが出て行ったのを確認し、再び手元に視線を戻した。
ふと視線を感じ、視線をテレビの方に向けると、そこには、いかにも機嫌の悪そうなエースがこちらを見ていた。
「どうかした??」
何が言いたいのかわかっていたが、わざと聞いてやると、更に不機嫌そうに顔をしかめた。
「サボ…お前、ルフィを甘やかし過ぎだ。」
「そんな事ないだろ?エースも充分甘やかしてるじゃないか?」
「ふん…自分ばっかいい思いしやがって、よく言うぜ…」
そう言うと、エースは視線をテレビに戻した。
どうやらエースは、ルフィが俺にだけ抱きついたことに拗ねているようだ。
まったく…
エースはガキだなぁ…。
軽く肩をすくめて止めていた手を再び動かしだした。
しばらくの間、リビングには静けさが続いていた。
お互いに会話をする事もなく、ただテレビから流れる音と、朝食を並べる音だけが、リビングを支配している。
しかし、ガチャリと玄関の方から聞こた音を合図に、その静けさは終わりを告げた。
トタトタと愛しい足音が近づき、起きてきたときと同様に、勢いよく扉が開くと、雪まみれの大好きな笑顔が表れた。
「エース!!サボ!!コレ見てくれ!!」
そういって入ってきたルフィの腕には、手のひらサイズの雪だるまが抱えられていた。
「ルフィ…。家の中に雪を持ってくるなよ…」
エースが、不機嫌そうに雪だるまを見る。
まったく…ルフィに八つ当たりするなよな…
「なんだよぉ〜。いいじゃねぇか!それよりこれな、」「っんだよ!うるせぇな!!」
「あっ!!!!!」
エースに見せようと差し出した雪だるまが、振り返ったエースの腕に当たり、床に落ちて崩れてしまった。
「何すんだよっ!!!」
「何だよ!!たかが雪だるまだろ!!!!!」
「ーッ!!!」
完全にエースの八つ当たりだが、そんな事を知らないルフィは、悲しそうに顔をしかめた。
流石にそれは……
「エース、ちょっと言い過、」
「…っだよ…何だよ!!!エースのバカ!!!だいっきらいだ!!!」
「あ!ルフィ!!!」
ルフィは腕に抱えていた雪だるまをエースに投げつけると、リビングを出て行き、そのまま自室にこもってしまった。
エースが、雪まみれになって固まっている。
「エース…いくら機嫌が悪いからって、ルフィにあたるなよ…」
「…あたってねぇよ…」
俺は小さくため息を吐いた。
意地っ張りというか、何というか……
「…なぁエース……ルフィがさ…持ってきた雪だるま、3つあったな。」
床やエースについている雪だるまだったものを見詰める。
そんな俺の様子にエースは、何だよ?と言いたげに顔をしかめた。
「あれさ…きっと俺たちだったんだろうな……」
「っ!!!」
エースは、一瞬大きく目を見開くと、床に落ちて砕けた雪だるまを見た。
「………ルフィ……」
自分がしたことに大分後悔しているのだろう、ルフィの名前を呼ぶ声がひどく頼りなかった。
「ルフィ、一生懸命作ったんだろうな…。指先が真っ赤だった。」
「……」
うつむいたまま、ぴくりともしないエースに、少し言い過ぎたかな、と心配になって声をかけようとすると、真剣な目をしたエースが俺に顔を上げた。
「なぁ、サボ…少し手伝ってくれ…」
* * *
「―――、」
「―――――!!」
「………ん…」
窓の外から聞こえる声に、ルフィは目を開けた。
どうやらふて寝してしまっていたようだ。
エースと、サボの声だ…
何を言っているかまでは聞き取れないが、外からは確かに2人の声が響いていた。
流しっぱなしだった涙を袖で拭うと、のそりと起き上がり、半開きのカーテンの隙間から外をみた。
「―っ!!!!!」
ルフィは上着を着ることも忘れ、外へ飛び出した。
* * *
「エース!!!サボ!!!」
何やら言い合いをしていた2人だったが、突然聞こえた声の方へ振り返った。
「ルフィ!!」
エースは一瞬驚いたように目を開いたが、すぐに申し訳なさそうに眉をさげた。
「ルフィ…さっきはごめんな……俺、」
謝罪を口にしていると、ルフィが勢いよく抱きついてきた。
不意討ちのことで、倒れそうになったが、何とか受け止め、胸の辺りにしがみつくルフィを見た。
「ルフィ…?」
「エース。いいよ。もう怒ってねぇ。」
本当か?と心配そうに聞くエースに、ルフィは、本当だ、と返すと、独特の笑い声をあげた。
「ルフィっ………」
エースは強くルフィを抱きしめた。
ルフィも、そのエースの背中に腕をまわした。
そんな2人の様子に、世話の掛かる兄弟だな。と密かに思うと、抱き合う2人へ声をかける。
「さ!ルフィも、エースも、飯にするか!!」
゙飯゙という単語に、反応したようにルフィのお腹がなった。
それを3人で笑い、遅めの朝食のために並んで家に足を向けた。
3人の後ろ姿を、仲良く並んだ3つの雪だるまが眺めていた。