book.2

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俺は人を助けた。

助けたと言っても、俺は神様なのだから当たり前なことなのだが、ただ何時もと違ったのは、助けたそいつが、俺の家に思い切り蹴りを入れて穴を空けてきた、なんとも罰当たりな奴だったということだ。


目の前にいるローとキッドが不機嫌そうに、ぽっかりと空いた穴を見詰めている。

2人は数分前ほどに俺のところに遊びに着たのだが、祠の有り様を見て機嫌が急落下した。

ローとキッドは俺の友達である神様だ。ローは近くの神社で、キッドは隣町の神社で、人々の願いや土地の安全を守っている。
2人共とても優秀な神様だ。

「おい。ルフィ……これは一体何があった?」

「あー…えーと、あれだ、転んでさ、自分でやっちまった。」

目線を穴から離さないまま聞いてきたキッドに、俺ドジだよなぁ、っと笑って見せるが、2人の表情は固いままだ。

「麦わら屋……。」

ローがしっかりと俺の目を見てくる。

その目はまるで、下手な嘘はつくなとでも言うようだった。

「あー…えっと、この近くの高校生の人にさ……」

どこまで話そうかと迷いながらもごもごと話していると、少し向こうから話し声が聞こえて来た。
話し声のする方を見ると、高校生くらいの男達が歩いていた。

あ、エースだ!

そこには、祠の穴の原因であるエースがいた。
俺は一瞬、エースの前に姿を表そうと思ったが、今はローとキッドがいることを思いだした。
ローとキッドは俺が人間の前に姿を出すことを嫌がる。
そのことで、数日前にこっぴどく叱られたことを思いだし止めることにした。

「麦わら屋?なにかあったか?」

突然何も言わずに一点を見詰めている俺を不思議に思ったのか、ローは俺の視線の先をたどる。

「もしかして、あの中にこの穴空けた奴がいるのか?」

「あー…えーと…」

「そうなのか?麦わら屋?」

曖昧に唸っていたが、真剣な顔で俺を見る2人に嘘がつける筈もなく、俺はこくんっと小さく頷くしかなかった。

「で、でもな!天罰はちゃんと当たってるから!もう大丈夫だ!」

「本当か?」

本当は、その天罰からエースを助けてしまったのだが、そんなことを言える筈もなく、本当だ。、っと頷いてみせた。

「………………そうか」

しばらく、黙って俺を見詰めていた2人だったが、納得がいったのか少し空気が和らいだ。

何とか誤魔化せたみたいだ。

俺は小さくため息を吐いた。
俺自身、なぜエースを助けたのか分からなかった。
自分の大切な祠に穴を空けられたのだから、当然腹は立ったのだが、エースを見た瞬間何故か助けなくちゃと思ったのだ。
それが、ただ単に自分の気が変わったからなのか、エースが余りにも辛そうな顔をしていたからなのか、分からない。

俺は2人に気付かれぬようもう一度、ちらりとエースを見た。

また今度遊びに行こう。


俺はローとキッドに向き直り、何処か行こうと笑顔を向けた。

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