book.2
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俺はあれから数日で退院することが出来た。
退院するときに医者が、君は本当に運が良かった、普通なら、命を落としていても可笑しくないくらいの事故だった、と言っていたが、俺はどうでもいいと鼻で笑い飛ばした。
俺は死ぬの何て何とも思わないし、悲しむ奴もいないだろうと思っている。
あー…でも、あいつらには怒られそうだな…
勝手に逝ってんじゃねぇよ、と怒る俺の友達と、今は海外にいる兄弟の顔が浮かび、自然と俺は苦笑した。
あぁ…それと、あいつだったら泣いて悲しむかもな……
あいつと言うのは、数日前病室で突然出会ったルフィのことだ。
俺は目を細めあの眩しい笑顔を思い浮かべた。
ルフィはあれから、毎日のように突然俺のところに現れ、何気ない話をしては、突然居なくなり、を繰り返していた。
前に一度、何処に住んでいるのか、何者なのかと聴いたのだが、曖昧に流されてしまい、聞くことは出来なかった。
せめて連絡先だけでもわかったらいいんだけどな…
俺は小さくため息を吐いた。
普段余り人や、物に執着するタイプでは無いのだが、何故か今回は違っていた。
ルフィといると物凄く落ち着くし、もっとあの眩しい笑顔を見ていたいとおもう。
何故かなんて分からない。
だか、そう思う気持ちは確かなものだった。
「あれ?エースか?」
久しぶりの学校に向かう通学路をゆっくり歩いていると、後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ってみると、よく見知った顔の2人がいた。
「おう!マルコ、サッチ!」
驚いた顔の2人へ、久しぶりだなっと笑いながら片手を挙げると、久しぶり、と2人は俺の横に並んだ。
「お前、結構でかい事故したんだろ?」
もう大丈夫なのかよ?と自慢のリーゼントを揺らしながら、サッチが俺に視線を向けてきた。
「あぁ、全然大丈夫だ。怪我も軽いので済んだしな。」
俺って運よかったんだなぁ、と笑う俺を見て、マルコは眉間にシワを寄せる。
「全く…もしかしたら、死んでても可笑しくなかったんだろぃ?本当、気を付けろよい。」
マルコが言ったことに、そうだぞ!とサッチも賛同し、俺の頭を軽くこずいた。
俺は、わかってるよ!と、こずかれたところを擦りながら、べーっと舌を出すと、餓鬼かよ、とマルコが呆れた様にため息を吐かれた。
「あ!やべぇ!俺、今日日直だった!!」
サッチは慌てた様に声を上げ、肩に下げた鞄をしょい直すと、また後でな!とだけ言い残し、学校へと走り去って行った。
「全く……慌ただしい奴だよぃ。」
サッチの後ろ姿を見送りながら2人で苦笑した。
しばらく何を話す訳でもなく、ゆっくり歩いていたが、ふと足を止めたマルコに俺は視線を向ける。
「なぁ…エース…」
「どうかしたか?マルコ?」
「エース…お前、この辺りで事故ったんだよなぃ?」
マルコの問いに周りを見渡して見ると、確かにそこは、車が俺に突っ込んできた辺りだった。
「あぁ。この辺りだったけど……何かあったか?」
マルコは、視線を道端に向けた。
その先を追ってみると、そこには、穴の空いた小さな祠があった。
「もしかして、これ、お前がやったかよぃ?」
「えっ…何でだ?」
確かにそれは俺があの日むしゃくしゃして蹴った祠だった。
「お前がやったのかよぃ…」
「…あぁ…イライラしてて…つい…な……」
マルコの目が余りに冷たくて、俺の背中を変な汗が伝った。
何でマルコの奴こんなに怒ってるんだ…?
「たくっ…いくら何でも祠に当たるんじゃないよぃ」
「わりぃ…」
「俺に謝るなよぃ。」
マルコが、謝るならこっちだろぃ、と小さな祠に視線を持っていく。
俺はマルコに言われる通り、祠の前にしゃがみ、手を顔の前であわせ心のなかで謝罪した。
ついイライラして蹴っちまった…穴空ける積もりはなかったんだ…ごめんな。
俺は立ち上がると、もう蹴るなよぃ、と良いながら歩きだしたマルコに続いた。
「なぁ、マルコ。お前って神様とかって信じるタイプだったか?」
「別に神様なんて信じちゃいないよぃ。」
マルコは祠をちらりと見る。
「でも、あれは特別なんだよぃ……」
マルコの声がいつになく真剣だった。
かなりあの小さな祠の神様を崇拝しているらしい。
俺は、後で調べてみるかな、っとおもいながら、もう一度だけちらりと祠を振り返った。
何故か一瞬そこにルフィがいた気がした。