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□さよなら夢見たクリスマス
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・クリスマス話なのに暗い
街が賑わう12月のクリスマスイブ。
そんな、楽しい幸せな日だというのに、一人の闇医者の元に、一人の情報屋からの電話があった。
――俺は、誰ですか―…?
「臨也っ!!」
俺が手をかけたドアが悲鳴をあげて吹き飛ぶ。あまりに焦りすぎて、ドアを壊してしまった。
だが、今はそれどころじゃない。
俺がこの家の主と過ごすはずだった今日のクリスマス。支度をしていた俺に、友人からの一本の電話があった。
『臨也が、記憶喪失になった。』
信じられなかった。昨日、あいつは池袋に来て、いつも通りの喧嘩をして、そのまま新宿に帰ったはずだ。
ここに来るまで、頭の中には臨也のあの憎たらしい笑顔が浮かんでいた。
悪い夢なら覚めてくれ。そう何度願ったか。
俺は外れたドアにも構わず、急いで二人がいるであろうリビングへ向かった。
「いざ…や、」
姿形は何も変わっていない。でも目が違った。
明らかな怯えの目。いつもの喧嘩をしている時の見下したような目でもなく、恋人として過ごす時の甘えたような目でもない。
普通の人間の目をしていた。
「…あ、あの…」
「この人が平和島静雄。君の恋人だよ。」
そう言われると、臨也はこっちを見て頭を下げる。俺はそんな臨也を見て、ただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
こいつは、誰だ。
「…とりあえず静雄、座って。」
そう言われるがままにソファーに座り、臨也を見る。そのまま、新羅に疑問をぶつける。
「…どういうことなんだ。」
「僕にも原因はわからない。臨也から電話が来て、変な質問されたから来てみればこの様だ。」
「…あ、目が覚めた時に、携帯が手元にあって…、それで一番最新の履歴にあったのが新羅さんで、…だから電話を。」
いつもは聞くことがない臨也の敬語。信じたくなかった。こいつが、恋人の俺さえも忘れてしまったなんて。
「…全部、忘れちまったのか。」
「…、ごめんなさい。」
「俺のことも、か。」
「…ごめんなさい…っ。」
ショックを隠しきれなかった。今日の約束も、俺と過ごした今までの時間は、こんなにも簡単に消えてしまうものなのか。
辛くて、悲しくて、思い切り泣きたかった。
「…静雄。」
「…。」
「ショックなのはわかる。でも、ちゃんと話を聞いてくれ。」
「…あぁ。」
正直言って、まだ放心状態で、状況が飲み込めていなかったが、話を聞かなければ何もわからない。
俺は素直に新羅の話を聞くことにした。
「臨也の話によると、目が覚めたときはこの部屋でソファーに転がっていたらしい。記憶が無くなるような原因はまだわからない。」
「…記憶は、戻るのか。」
「戻るかもしれない。」
俺はがばっと顔を上げる。戻るかもしれない。その言葉は、何よりの希望の光だった。
だが、新羅は一つ、深刻な顔で付け足した。
「ただし、裏を返せば、」
――二度と記憶を取り戻さないかもしれない。
あれから、何時間が経ったのだろう。俺は未だに臨也の住むマンションのソファーに座っていた。
新羅に言われた一言で、俺はまたどん底に叩き落とされた。
記憶を取り戻さないかもしれない。
どんなに振り払おうとしても離れない言葉。
臨也はといえば、あれからずっと大きな窓から見えるイルミネーションに飾られた街を眺め続けていた。
俺はなんとなくふらふらと臨也の隣に行き、綺麗に彩られた街を何も考えず、ただ見ていた。
「…ごめんなさい。」
「なんで、謝るんだよ。」
「恋人のあなたのことさえ、思い出せないだなんて…。」
「手前が悪いわけじゃねぇ。謝らなくていい。」
その言葉を最後に、俺たちの間に会話は無くなった。時間だけがただ過ぎていった。
重苦しい空気の中、臨也が口を開いた。
「…静雄さんは今、幸せですか?」
「…は?」
「はは…、そんなわけないですよね。恋人に自分のこと忘れられたクリスマスが幸せだなんて…。でも、今俺は幸せです。」
「…。」
「記憶が無くなって、何もかも失ったと思ってたのに…、こうして隣にいてくれる誰かがいる。その人が、自分の記憶から消えてしまっていても。」
――シズちゃんは今幸せかい?
――俺は、今幸せだよ。
――去年まで誰もいない、孤独なクリスマスを過ごしていたのに、
――今年は、自分の大切な人が隣にいてくれるんだから。
…あぁ、お前は例え記憶を失っても、同じような質問をするんだな。
臨也が話す姿を見て、去年の笑っていたクリスマスを思い出した。
俺の冷たい頬を涙が伝い、街のイルミネーションだけが、虚しく光輝いていた。
(お前が記憶を失っても、)
(お前が幸せだと思えるのなら、それで良い。)
(そう、無理矢理自分の心に言い聞かせた。)
*
あぁ、幸せなクリスマス話を書きたかったのに…!!
某サイト様の記憶喪失ネタが非常に印象に残っていて、それに影響された結果がこれだよ!!
また書くとしたら今度は幸せなクリスマス話を…><