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□捨ててしまえば
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・新羅side




僕には好きな人がいた。今でも、一応いるにはいる。でも、その人には恋人がいる。
中学、高校と同じだった、同級生。折原臨也。
彼は変わった奴だった。いや、誰の目から見ても、彼は異常な奴だっただろう。けど、僕はそんな彼に惹かれた。


彼は確かに異常だ。
でも、彼にはおそらく僕にしか見せない顔があった。それは、普段とは違う至って誰にでもあるような顔。時には恋愛相談をされるようなこともあった。

相手は決まって、『平和島静雄』。




正直に言えば、辛かった。
自分の好きな人の恋愛を応援するのは。
でも、僕は彼の幸せを祈った。

それしか出来なかった。





そしてついに臨也と静雄は結ばれた。
臨也は笑っていた。いつもの怪しげな笑みではない。心の底からの嬉しそうな笑顔。
今でも覚えている。その無邪気な笑顔で、結ばれたことを報告しにきた臨也の姿を。



『新羅!俺、シズちゃんの恋人になれたんだ!』



そう、幼い子供のように。
僕も笑った。そしておめでとうと、友達として祝った。

僕も嬉しかった。嬉しかった、はず、だった。


あの時感じた心の小さな痛みは、後の僕にとって、大きな苦しみとなる。





それから何年が経ったか、その間、臨也から連絡がくることはたくさんあった。
昔と変わらない、今日は静雄と何があった、だとか、今度の静雄の誕生日は何を買えばいいか、だとか、そんな女々しい相談ばかりだった。
それでも、僕は臨也が僕を頼りにしてくれているだけでも嬉しかった。笑っていられた。


でも、心の中ではあの時の痛みが、少しずつ少しずつ大きくなりつつあった。


痛い、いたい、イタイ


理由なんて、わかっている。わかりきっている。
でも、臨也の笑顔を奪うことなんて、僕には出来ない。奪いたくない。


弱虫な僕には、自分を救うことすら出来なかった。





そんな、ある日のことだった。



――アイツと、別れようと思うんだ。




なんとなくテレビを見ていたときに入った、ある人物からの一本の電話。
それは、僕にとって、救いであり、歓喜する報せだった。



今思えば、あの時の自分は狂っていたのだと思う。愛しい人から笑顔が消えることより、自分が救われることに喜びを感じていたのだから。
それ程苦しかった。辛かった。心はもう、傷だらけだった。



それからしばらくして、インターホンが鳴った。
予想はしていた。僕のことを頼りにしてきた彼ならば、ここに来てくれると。




「…臨也?」

「…。」

「入りなよ。」


何かを察したように演じた。
普通の親友ならば、この落ち込みようなら何事かと察すると思ったからだ。
そのままリビングに連れていき、話を聞く。



「…静雄と、何かあったのかい?」

「振られた。」

「やっぱり。」


見透かしていたように返す。なにもかもお見通しというように。
ただ、いつも通りの頼れる親友を演じる。
奥底の喜びを、ぐっと押さえ込んだ。


「…何となく来た時の落ち込みようで察したよ。」



そう言うと、臨也は突然笑みを浮かべ、焦ったように口を動かす。


「…ははっ、まぁそうだよね。シズちゃん、俺と付き合い始める前は、クラスで人気の女子のこと好きだったって噂もあったし。結局俺とシズちゃんは釣り合わなかったんだ。なんとなく、わかっていたし、」


そうすらすらと話す臨也を、見ていられなかった。今はその笑顔を、僕は見たくない。
必死な思いで、俺は臨也を抱きしめた。



「…いつまで、そんなこと言ってるんだい。」


淡々と聞こえる声。自分でも、自分が話しているような感覚ではなかった。
それほどに、心と頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。


「何のためにここに来たの?辛かったこと、全部吐き出したかったから、ここに来たんじゃないのかい?僕の前でくらい…、」


僕は一度言葉を切る。
そして軽く息を吸うと言葉の続きを言った。




「…素直になって、くれないのかい。」



その言葉を聞いた瞬間、臨也は我を忘れて泣きはじめた。僕の腕の中でずっとずっと泣き続けた。



あぁ、可哀想な子。
泣くなら好きなだけ泣けば良い。
僕だけを頼ればいい。

君が愛した邪魔者がいなくなった今、


君のその紅い瞳に映るのは、




僕だけでいい。





(あぁそうさ、)
(あの時の僕は狂っていた。)
(泣き続ける臨也を抱きながら、)
(ずっと笑い続けてたなんて、ね。)















*
普通なシズちゃんとピュアな臨也さんと少し狂った新羅のお話でした!
私的に新羅side書くのが楽しかったww
たまにはこんなどろどろした話もいいんじゃないか←

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