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□雨に濡れた黒猫は
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――平和島静雄に彼女ができたらしい。


仕事で調べ物をしていた俺の耳に入ってきたのは、何よりも絶望的で、俺の初恋が終わる報せだった。





ある人物に、少しで構わないからダラーズの情報を売ってほしいとの依頼を受け、ダラーズの事は大体把握しているが、もしかしたら新しい情報があるのではないか、とダラーズの掲示板を見ていた時の事だった。


『平和島静雄に彼女が出来たらしい!』
一際目立ったその書き込み。
俺はしばらくその書き込みから目を離す事が出来なかった。



シズちゃんに、恋人が出来た。
そりゃ高校時代の時から、あの力で恐れられてきたとはいえ、それなりに女子にモテている事もあった。

でも、その頃に告白されたものは、確か全て断っているらしいことは俺の耳にも入っていた。


それなのに、
それ、なのに、

信じきれなかった俺は、せっかくの休みの日だったが、その情報を確かめるべく、池袋の街へ出掛けた。
あんな情報はデマだ。まだ、きっと俺にも希望はある。
そんな、小さな儚い希望を胸に秘めながら。







外は、秋に入った始め頃とはいえ、夏に比べれば涼しく、もう寒いくらいの気温だった。空は陰り、日は出ていない。

まるで、今の自分の心を表しているようだ。


そう思うとなんだか辛くなり、俺は空から顔を反らす。
その時だった。



「…雨だ。」


ポツリ、ポツリと少しずつ雨足は早くなっていく。
まわりの人集りが消えていくのにも関わらず、俺はその場に俯いて立ち尽くしていた。

いつの間にか小雨は土砂降りに変わり、俺の髪もコートもびしょびしょで体に貼りついていた。
被っても意味が無いであろうファーコートのフードを被り、一度路地裏の方へ走る。
路地裏にしゃがみこむと、そろそろ帰ろうか、こんな雨じゃシズちゃんも外に出ては来ないだろう。そう考えると、俺は濡れた服を貼りつけたまま立ち上がる。
そして路地裏から出ようとした時だった。



「静雄さん!」

「あぁ、悪ィなわざわざ。」


ふと聞こえたのは、聞き慣れた低い声と、聞いたことのない女性の声。
声の聞こえる方に、なにがあるかなんてわかりきっていることだった。それでも、覚悟をして声のする方に顔を向けた。


無論、そこにあったのは俺の知らない綺麗な女性と、俺が愛していたシズちゃんが幸せそうに笑う姿があった。

俺には、決して見せなかった、心の底から幸せそうな笑顔。
それを見た瞬間、俺の小さな希望は粉々に打ち砕かれた。



――…あぁ、そうか。本当、だったのか。
そう、心の中で小さくつぶやいた。
悲しいはずなのに、苦しいはずなのに、水溜まりに映る俺の顔は笑ったように歪んでいて。
目から流れる生暖かいものは、冷たい雨に流されていく。


相合傘で、楽しそうに笑いながら話をしている二人。見ているだけで、心が張り裂けそうだった。




ずっとずっと憧れた相合傘も、手を繋ぐことも、お互いに笑って話すことも、いつか、いつか叶うかもしれない。そう、思い続けて諦めなかった。いや諦められなかったこの初恋。
その初恋も、今日で終わり。

憧れだった事は、全部別の子に持っていかれてしまった。



でも、もういい。
俺には、もう無理なんだ。

シズちゃんは、シズちゃんの幸せなこれからを歩んで欲しいから。


「…潔く、害虫は消えるとするよ。」

誰にも聞こえないことを知りながら、俺は小さく雨のなかに言葉を吐く。


さようなら。シズちゃん。




(涙も、恋心も雨に流され、)
(一人街行く黒猫は、)
(冷たい雨に打たれながら、)
(愛しい人の幸せを)
(ただそれだけを祈った。)
















*
はい!リハビリ作でした!←
ハッピーエンドもいいけれど、たまにはこういう失恋物もいいのではと思い、出来たこのお話。
その良さがなかなか表現出来ない…orz
まぁ黒猫って言葉が使えただけ満足です←ぇ

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