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□弱い自分。
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守りたいのはの続きです。先にこちらをお読み下さい。







あれから、

臨也が余命宣告を受けたことを告げたあの日から、


もうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。




最初のころは頻繁にこちらに来ていた臨也も、日が経つにつれて、少しずつ来る回数が減っていった。

一番最後に見たのは、大体二週間ほど前だろうか。



新羅に聞くと、あいつは病院に入院するでもなく、自分が住むマンションで静かに過ごしているそうだ。




そして俺は今、臨也のマンションの前にいた。


俺はそのまま臨也の住む階へ行き、インターホンを押した。


「はい…って、シズちゃん?」

「…よお」


意外な来客に驚いたような顔をした臨也は、少し笑って俺を歓迎した。

随分と痩せた。
元々細身の臨也の体は、さらに細くなり、顔も少しやつれた感じだった。前より、少し老けた感じがした。


唯一前と変わらなかったのは、あの明るい声の調子と、憎たらしい笑顔だった。


「めずらしいね、シズちゃんから俺の家に来てくれるなんて、初めてじゃないか。」

「…手前が来なくなったから、来てやったんだよ」


まずいことを言ってしまったか、そう思ったが、臨也の表情は何一つ変わらずに笑顔のままだった。


「仕方ないじゃない。身体が言うこと聞いてくれないんだよ。」

「…そうか。」



普通の恋人同士だったら、こんな時どんな言葉を投げ掛けてやるのだろうか。
俺にはそんなことわからなかった。

つかず離れず、そんな変わった恋人関係だった俺たちは、どちらかと言うと友達という関係なのかもしれない。


今日の俺の目的は、慰めるわけでも、最期を迎える前に顔を見に来たわけでもなかった。

あの日から気に掛かっていたこと。
それを確かめに今日ここに来た。


「…なぁ臨也。」

「なに?」

「お前はなんでそんなにもいつもの自分にこだわる?」

「…。」

「…最期までいつもの自分を守り通すことに何の意味が」

「黙って。」


俺の言葉は、突き刺さるような臨也の声に遮られた。


「…シズちゃんには、きっとわからないよ。」

「…。」

「最期まで、俺は本当の自分を見せたくない。」

「…要するに、自分のプライドを守りたいってことだろう。」


臨也は無反応だった。
つまりは図星ということだろう。


「…ちいせぇ」

「…?」

「ちいせぇ野郎だな。手前は。」


臨也のことは見ずに、はっきりそう言った。

「…何を、」

「お前にとって俺は何なんだ。」

「…え?」

「答えろ」

「…え、えっと…恋、人?」

「わかってんじゃねぇか。」


まだ何を言いたいのかわからないと言うように首を傾げる臨也に、俺は言い放った。



「…、なんで、頼ってくれねえんだよ。」

「…。」

「俺達は他の奴らとは違うような変わった恋人関係だけどよ、それでも、俺はお前の恋人で、お前は俺の恋人だ。」


臨也は口を開くが何も喋ろうとしない。
俺は続ける。


「俺はお前の恋人だ。だから、辛いことをちゃんと俺に言ってほしいって思うのは…、当然のことじゃねぇのか。最期まで、お前は誰にも素直になれずに、強がったまま死んでいくのか。」


正直言って、この言葉は衝動的に吐き出されたものだった。
心の中にたまっていた全てが、今溢れだしているような感覚だった。




「…俺は、そんな辛い思いしたまま、強がったままお前が死んでいくのは嫌だ。」



強く、そしてはっきりと言った。
これが俺の本心であり、一番伝えたかったことだった。


しばらくの沈黙。
俺は臨也の答えを待った。


「…はは、は」


しばらく待って返ってきたのは、突っ掛かったような、どこか乾いた笑い声だった。


「…ほんっと…変なとこ勘鋭いよね…。負けたよ。」

「褒めてんのか。」

「一応ね…正直、シズちゃんがそこまで俺のこと考えてくれてるなんて…思ってなかった。」

「…。」

「いいの?甘えても。」

「当たり前だろ。」

「…シズちゃんには、本当の俺、見せていいの?」

「…あぁ。」



俺が頷くと、臨也はふっと肩の荷が降りたかのように力を抜き、俺の体に寄りかかる。
俺はそっとその体を抱きしめる。

しがみつくように臨也は腕を俺の背中に回すと、臨也は小さく言った。


「…シズちゃん、」

「なんだ。」

「最後の、お願い。聞いてくれる?」

「言ってみろ。」



――しばらくの間、このままでいさせて。

俺が小さく頷いたあと、顔を上げた臨也の表情は―…




確かに、笑顔だった。









*
希望があったので、「守りたいのは」の続編を書かせていただきました!
最期まで弱いところを見せたくない臨也さんを書くのは、中々楽しかったです^//^
希望してくださった方、ありがとうございました!

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