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□新しい記念日
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――5月4日。

それは俺の生まれた日。

普通なら誰かがお祝いしてくれたり、プレゼントをくれたり……と、賑やかな日になるだろう。
だが、俺、折原臨也にそんな楽しい誕生日など来るはずもない。


仕方のないことだ。

そう胸の中で呟くと、俺は取引へ行くべく、池袋へと向かった。



――――…



「……はぁ…。」

俺は一人ため息をつきながら、池袋の街を歩く。

疲れた…。
今日の取引は大事なものだったとはいえ、非常に危ない賭けになった。
まぁなんとか無事に終わったけど。

そう思いながら、俺は夜の空を見上げた。
何も見えない真っ黒な空。星も一つも見えない。

…今年も。
今年もこれで俺の誕生日は終わる。
いつも通りの生活を過ごして終わる。

…寂しくなんか、



そう思った瞬間だった。



「いぃぃざぁぁやぁぁ!!!!」

ドスのきいた怒声と共に、俺の横を自動販売機がすりぬけた。

とっさに振り向くと、視線の先にいたのは、


俺が一番大嫌いで、一番愛している奴がいた。



「…シ、ズちゃ…」

あまりに突然のことで、身体が動かない。
いつもなら動けるのに。
いつもと違う、特別な日だったから。
誰よりも祝ってほしかった相手に出会ってしまったから。

「よーくのこのこ池袋まで来れたなァ臨也くんよぉ…?」

「…はは、勘弁してくれないかなぁ…、今日疲れてるんだよ。」


早く、
早く逃げたい。

祝ってもらえないことなんてわかりきった事だった。
だって、シズちゃんは俺のこの気持ちを知らない。
知ったとしても振られるのがオチ。

だから、一刻も早くこの場から逃げ出したかった。
本音が出てしまいそうだから。

『祝ってほしい』

その一言が、出てしまいそうだから。


「今日こそは息の根止めてやる…っ!!」

そう言うと、シズちゃんは乱暴に俺の手首を掴み、もう片方の手で殴ろうとする。

嫌だ。
やめてやめてやめて。


「…はな……放せよッ!!」


いつもは出さない、必死な声が、気付かない内に勝手に出ていた。

それを見たシズちゃんも、一瞬止まった。
だが、シズちゃんの口から出た言葉は、俺が予想出来なかった言葉だった。


「……手前…、今日なんかおかしい…。なんかあったのか?」



……は?
なに、言ってんの?

おかしい。
こんなことシズちゃんが言うわけない。
おかしい、おかしい。

シズちゃんの一言で、俺の頭は混乱した。

「な、に…言ってんの?そもそもなんで俺がシズちゃんに心配されなきゃいけないの?逆に言えばなんでシズちゃんが俺なんかの心配してるの?意味わかんない。」

「…それは」


シズちゃんは一度そこで言葉を切った。
この隙に逃げてしまおうかとも思ったが、その言葉の続きが気になって、逃げることは出来なかった。

しばらく経っても、なかなか相手は口を開きそうになかった。
沈黙に耐えられなくなった俺は、口を開いた。

「……あーもう!言いたい事あるなら早く言ってもらえるかなぁ!?疲れてるって言ったでしょ!」

「…るせぇな!分かったよ!言ってやるよ!!手前が好きだから心配してんだよ!!」


…え?
なに、言ってんのこいつ。

あまりにもあっけなく吐き出されたその言葉に、俺の頭はついていけなかった。

好き?心配?俺を?
今聞いた言葉が、次々脳内で整理されていく。
そして、その意味が全て分かった時、俺の心臓は一気に鼓動を速めた。

「……え?なに、それ。つまり…告白、なの?」

「まぁ、そうなるな」


嘘だ。
顔が赤くなるのがわかる。

まさか、今までずっと望んでいたことが、こんなにあっけなく叶えられたなんて。


「…嘘。嘘…だ…」

「嘘じゃねぇよ。」

きっぱりと、力強く言い放った。
本当なんだ、と実感する。

「…俺、も」

「…?」



「…俺も、シズちゃんが好きだよ。」



ずっと抑えていた気持ち。
やっと言えた。

一度驚いたようにシズちゃんは目を見開いた。
だが、すぐに柔らかい笑みを浮かべ、俺を見つめた。

今まで見せなかった、優しい微笑み。


俺は恥ずかしくなって、すばやくシズちゃんの胸に飛び込んだ。


「…シズちゃん」

「なんだよ。」

「…大好き。」

「…ん。」


シズちゃんの胸の中で、俺は小さく想いを伝えた。




――5月4日。

それは俺の生まれた日。

だが、今年の5月4日、俺の誕生日は、新たな記念日となった。


5月4日、それは――…

俺とシズちゃんの想いが通じあった、特別な日。
















*
本当にあっけなく終わりました←
臨也さんHAPPY BIRTHDAY!!!!

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