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□逃げた先には
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※死ネタ
「…はっ、はぁっ…!」
桜が咲き始めた3月の終わり頃、俺のもとへ、一本の電話が入った。
電話の主は、旧友、岸谷新羅だった。
――静雄が、危篤なんだ。
考えたこともなかった。
シズちゃんが、命の危機に陥るだなんて。
俺は急いで電話を切ると、いつものファーコートを着ることさえも忘れて、外へ飛び出していった。
3月の終わり頃といえば、寒さはもうほとんど無く、陽の温もりが暖かいはずなのに、今日だけは、なんだか肌寒く感じた。
それが走っていたせいなのか、それとも、気持ちの影響なのか、それを考える余裕すらも無かった。
「新羅ッ!!」
「…あぁ、早かったね。」
心なしか、その時映った旧友の顔は、とても弱々しく見えた。
「シズちゃ…シズちゃん、は…っ…!」
「こっちだよ。おいで。」
穏やかな口調が、いやに苛々した。
あえて口には出さず、大人しく新羅の後ろを着いていった。
「…ほら、ここにいるよ。」
言葉が、出なかった。
変わり果てた姿だった。
顔は青白く、もう死んでいるんじゃないかとも思ってしまった。
今まで、共にあの喧嘩を続けてきた敵だったことも、この姿では思い出せなかった。
「僕がもっと早くに気付くべきだったんだ。こうなることも、想定していれば、手遅れになんてならなかったはずなのに…っ」
手遅れ?
何それ。もう、終わっちゃったみたいじゃないか。
そんな言い方、やめてよ。
シズちゃんはまだ生きてる。
死んでなんかない。
まだ、生きてる、ねぇ、しず、
頭の中は、焦燥感でいっぱいだった。
今までに、こんなに焦ったことなんてないと感じるくらい。
「…ね、まだ、生きてるんでしょ?ねぇ…ねぇったら。」
少し間が開いて、呼び掛けに答えるかのように、微かに瞼が開く。
「…い、ざ……や…」
「…シズ、ちゃん」
ひどく擦れた、
弱々しい声だった。
俺を見つけたときの、あのドスのきいた声は、もうどこにもなかった。
「な、に…やってるの。シズちゃ…なんで、こんなことに、」
「…悪ィ…臨也……。」
小さくて、あまりにも弱々しくて、
「……もう、だめ、みたいだ…」
違う。
違うよ。
駄目じゃない、まだ、シズちゃんは終わりなんかじゃない。
そう、言いたいのに。
声が出なくて。
「…ごめん、ごめん…な…、臨也…っ…」
なんで、
なんでそんな悲しそうな顔するの。
なんでそんなに、謝ってるの。
「なに、言ってるのさシズちゃん、らしく、ないよ。こんなの。いつもみたいに、俺と喧嘩しようよ。ねぇ、シズちゃん。」
何回も何回も突っ掛かって、それでも何回も呼びかける。
でも、シズちゃんは変わらずに謝り続ける。
「…ごめん……な…。」
シズちゃんはゆっくりそう言うと、目を閉じて一筋涙を流した。
それが、シズちゃんの最期だった。