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カナリアは、小さな可愛らしい容姿もさることながら、美しい鳴き声が、人々の中では有名である。


美しい鳴き声は人々を魅了させ、それに引き込まれてカナリアを飼い始める者も少なくはない。





――ならば、

その美しい鳴き声をカナリアから消し去ってしまったら、

突然、カナリアから美しい鳴き声が無くなってしまったら、


それを飼っていた者達は何を思うのだろうか。

そして、


美しい声を失ったカナリアは、



どうなってしまうのだろうか。










「やぁ静雄。久しぶりじゃないか。」

「言うほど久しぶりでもねぇけどな。」

「良かったじゃない。目指してる音楽大学、ちゃんと入学できてさ。僕も少しは勉強に付き合ってあげたしね。」

「…まぁ、確かに助かったけどよ。」



ここは全国でも有名な音楽大学。俺は高校からピアノを弾き始め、ピアノに魅了され、音楽の道を行こうと音楽大学入学を目指していた。
その時なんやかんやで協力してくれたのは幼なじみの岸谷新羅。高校は違かったが、大学に行くための勉強を手伝ってくれた。こいつはバイオリニストだ。腕も中々のものである。


「で、どうだい?新しい環境は。何とかやってけそう?」

「…ん、まぁ、な。一応お前も居ることだし、何とかなるだろ。」


そう適当に返すと、新羅は何か思い出したかのようにはっと顔を上げた。


「そうそう、君に紹介したい人がいるんだよ。ピアニストの奴なんだけど。」


たぶんホールにいるかな、と言うと新羅は俺を誘い、大学内にある小さめのホールへ向かった。

少し歩いて、ホールの扉の前に着く。新羅はそっとホールの扉を開けた。
中へ入ると、綺麗な美しいピアノの旋律が聞こえる。誰かがピアノを弾いていた。
場面の移り変わりの表現がとても上手い。静かになったかと思うと、急に力強いメロディへ。
俺はしばらくその演奏を聴き入っていた。

名残惜しく曲が終わる。俺の隣にいた新羅はいつの間にかいなくなっていた。


「静雄!何やってるんだい。早く来なよ!」


そう、ピアノの側で新羅は俺を呼んでいた。


「お、おう。」


急いで新羅の元へ行くと、先程までピアノを弾いていた奴がこちらへやってくる。
黒い短髪に、赤い瞳が印象的な青年だった。たぶん、同年代くらいか。


「紹介するよ、彼は僕と高校で知り合った折原臨也。」


臨也と言われた青年は軽く礼をした。


「臨也、こっちは平和島静雄。前も話したけど、僕の幼なじみで、君と同じピアニストだよ。まだ駆け出しだけどさ。」

「一言余計だ。」

「事実じゃないか。」


そう反論していると、臨也と言われた青年はクスクスと笑っていた。とりあえずこちらからも挨拶をしようとして、一度青年の方を見る。


「あ…、えっと、とりあえずこれからよろしくな。機会があればピアノとか教えてくれよ。あと、呼び方は臨也でいいか?」


そう言い終えると、青年はズボンのポケットから小さな手帳を取り出し、さらさらと何かを書くと、俺に手帳を見せた。


『此方こそよろしくね。
呼び方はそれで構わないよ。
静雄くんじゃ固いし、シズちゃんでいいかい?』


そう、綺麗な字で書かれていた。
「シズちゃん」という女々しいあだ名に違和感を覚えたが、俺は、おう、と返すと軽く握手を交わし、新羅とホールを出ていった。




「…なぁ新羅?」

「手帳のことかい?」


全て言い終える前に、見透かしていたかのように言う新羅。
何も言えずに、その言葉に頷くと新羅は疑問に答える。


「まぁ、初対面で気にならない訳無いしね。臨也は声が出せないんだ。というか、声が出ない。昔…中学上がる頃くらいかなぁ。それくらいの頃に、ある日突然声が出なくなっちゃったみたい。だから、臨也との会話は携帯とか手帳が主なんだ。」

「…へぇ。」


だからあの時も手帳に書いて挨拶をしたのか。
そう納得しながら考えていると、今度は新羅から質問をされた。


「静雄は、折原臨也って名前に聞き覚えは無いかい?」

「え?あー…、まぁ。」


言われてみれば、聞いたことがあるような気もする。
すると新羅は一度目を反らして言った。


「やっぱ、最近は薄れちゃってるんだね…。昔、天才子供歌手って言われて一躍有名になった男の子。覚えてないかい?」

「あぁ…確かそんな奴もいたな。名前は…、」



――折原臨也。
そういえば、変わった名前だと思って引き込まれていた事があった。
まさかその少年が…、


「その天才歌手が、あいつだってのか。」

「ご名答。しかしいつしかその名は世間から消えた。テレビから、その歌声が流れることも無くなった。ちょうど、臨也が声を失った頃。それでも臨也は音楽の道を歩き続けて、今度はピアニストって訳さ。」


この事は言わないでおいてね、と新羅は念を押した。
言えないだろう。よほどの事がない限り。臨也にとってきっと辛く苦しいことだったに違いない。


「じゃあ、そろそろ僕は戻るよ。またね静雄。」

「あぁ、じゃあな。」



新羅と別れると、頭には臨也のことだけが渦巻いた。入学して間もなく、たくさんのことを知った。



「…仲良くできっかな。」


そう頭をかきながら小さく呟くと、少しでも親密になれることを俺は心から願った。



















*
長編第一話!
こんな感じで良いのだろうか…。
なんか本編と本当ちがくて申し訳ないです。

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