short books & pict 2

□僕の全力のアピール
1ページ/1ページ



・来神時代



俺の通う来神高校には他の高校と同様、いくつか自動販売機が設置されている。
その自動販売機の一つにデザートの自動販売機、というのがある。
正確に言うと、普通の自動販売機の中のジュースなどに紛れてこっそりと何種類かのデザートが売られているのだ。

甘党な生徒、少し小腹の空いた生徒などにこのデザートは買われ、校内でも中々の人気度を誇っている。

どうやらその生徒というのは、来神高校での有名人「喧嘩人形」も例外ではないようで。




「いぃぃざぁぁやぁぁあ!!」

「あははっ、シズちゃんってば本当低脳!っていうか馬鹿?いい加減学習能力つければー?」


今日も来神高校の昼休みでは、教員の頭を悩ませる問題児二人が殺し合いともとれる喧嘩を続けていた。
言うまでもなく、それは俺とシズちゃんな訳なんだけど。

周りの生徒は、俺達を見るなり場所を移し、怖いもの見たさに写真を撮りに行く者もちらほらと見える。


そんな光景には目もくれずに、俺達はただひたすら喧嘩を続けていた。



そんなこんなで余裕の表情で逃げ続けた俺に、とある女子生徒が目についた。
弁当を食べ終えたのか、デザートのプリンを美味しそうに食べている。
しかしそのプリンは、いつもはあまり見ない…、見覚えのないものだった。


ふと、あっと声を上げると、俺は突然足に急ブレーキをかけ静雄に向き直った。

シズちゃんもいきなり相手が止まったせいか、少し驚きながらもギロリとこちらを睨み付ける。


「やっと大人しく殺される気にでもなったか?臨也くんよぉ」

「はは、冗談よしてよ。ところでさぁ、」


にんまりと狐のような笑みを浮かべて俺は問いかける。



「今日まで、期間限定のプリンが自販機にあったって知ってた?」


シズちゃんの顔がサーッと青ざめる。

予想通り、とほくそえんだ次の瞬間、シズちゃんはぐいっと方向転換をして反対方向へと猛ダッシュで走り出した。


「えっ、ちょシズちゃん!?」


思わず呼び止めても、反応をするどころか聞こえていないという風にすぐに視界から消えてしまった。
さっきの殺し合いは何処へ。


「…はあ、どんだけプリン好きなんだよ。」


思わずため息をついて呆れてしまう。
たかがプリンに俺が負けたと思うと、どうも悔しくてならない。

たかがプリン。されどプリン。



「…はあ…。」


俺は再びため息をつくと、廊下の奥へと消えていったシズちゃんを探しにいった。






「くっそ…。」


下駄箱近くで項垂れる金髪の青年。
言うまでもなく、平和島静雄である。


「あのノミ蟲のせいで限定プリン買えなかったじゃねえか…!あぁーくそっ!殺す殺す殺す…。」



どうやら、あの後全速力で走った甲斐もなく、案の定限定プリンは売り切れていたようだ。
誰が見ても、静雄の機嫌が悪いのは明らかである。


「あー、ムカつく。殺す殺す…。」

いつまでも物騒な言葉を吐き続けながら、静雄は苛立ちつつも帰ろうと下駄箱を開く。


その時、靴を取ろうと伸ばした手がピタリと止まった。目は驚いたように丸くなり、呪詛のように唱えていた殺すという言葉すらも止まっていた。






「あれー?シズちゃん、まだ帰ってなかったの?もしかして、今の今まで例のプリン探し回ってたとか?ぷっ、馬鹿みたい。」


ひょこっと奥の壁から顔を出したのは、先程まで殺戮対象となっていた張本人。
しかし、その様子はどこか落ち着きがなく、いつも以上にそわそわとしている。


「残念だったねー!せっかくの限定プリンが食べられずに終わっちゃうなんて!っていうかさあ、あの喧嘩の最中にいきなりプリンの自販機に向かうとか、頭どうかしてるとしか思えないんだけど。甘党もほどほどにしないと、その内糖尿病になるかもよ?あ、でも化物だからそんな心配ないか。ごめーん!」


それに加え、いつも以上に饒舌である。
そして腹が立つ。

いつもの静雄ならば、ここで下駄箱を破壊してもおかしくはない。
だが、それでも静雄はぴくりとも動かずにじっとしたままだ。




「…シズちゃん?」


さすがに臨也は違和感を抱き、近づいて顔を覗き込もうとした。
臨也が静雄の後ろにまわり、ようやく静雄がゆっくりとこちらを見る。
そして、手をこちらへ伸ばすと―



バシッ


「…っだぁ!なにすんだよ!」


何をするかと思えば、静雄は臨也の額に思いっきり一発のデコピンを食らわせたのだ。
とてもデコピンの音とは思えない音ではあったが。


「ありえないんだけど…、人がちょっと心配してやってんのに」
「サンキュ。」



臨也の文句を遮り、静雄は一言「礼」を言った。
どこの自販機にもなかった少し豪華なプリンを、見せつけるように片手で掲げながら。
怒りが滲むかと思われたその顔には、勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。



その笑みを見た瞬間、臨也はびくりと肩を震わせ、途端に顔を真っ赤にして全速力で静雄の元から逃げるように走っていった。


その行動がもはや、静雄の考えを決定づけるということも忘れて。



(単細胞生物のシズちゃんなんて、)
(絶対に気づかないと思ったのに…!)
(なんでこういう時だけ鋭いかなあ!)








*
いや、気づくでしょう。
山も落ちもない!プリンの自販機は私の学校に実際にあります←
知らないふりをするのが下手くそな臨也さんのお話。
50000hit記念、瑠莉様からのリクエスト「来神時代の4213で甘めの話」でした!あれ、あま…甘めじゃな…い?
散々待たせた上にこんな出来で本当に申し訳ございません。リテイク受け付けますので、遠慮なく言ってください…。
これからも「境界線。」を宜しくお願いいたします。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ