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□桜咲く頃会いましょう
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・デュラの世界からかけ離れている。
・色々と捏造
・死ネタ
・一応来神時代








一際大きな風が吹き、


一本の桜の木から、たくさんの桜の花弁が散る。


桃色の中にぽつりといる黒は、


ふっと微笑み、紅い瞳を細めた。








そう、あれは何年も前のようで、つい最近の出来事。



桜が咲き誇る4月の始め。

俺の通う来神高校の通学路には、ぽつんと1本、寂しく佇む桜の木がある。


俺はいつも、家の位置等の関係でその桜の木の前を通ることが多い。というかいつも通る。
毎年桜が満開になるころは、学校に行くついでにその桜を独占して眺めることができた。


だが、今年は違った。
桜がやっと満開を迎えたその日、俺の前に先客がいたのだ。


短めの黒髪に、黒い短ラン。一際目立つ紅い瞳。

初めて目にしたその少年に、俺は釘付けになった。


すると、気配を感じたのか、その少年はこちらを振り向き目を丸くした。


「…君、いつの間にいたんだい?」

「い、いや、今ここに。」

「そっか。」


そう言って再び桜に向き直ると、俺に語り掛けた。


「…綺麗だよね。1本だけで可哀想だけど。」

「あぁ。俺、いつも学校行くときにこの桜見てんだ。」


俺が話したあと、しばらく沈黙が俺たちの間に流れ、少年はもう一度くるりと振り返ると、笑ってこう言った。


「じゃあ、明日も会うだろうね!」

「そうだな。」

「じゃあ、また明日」


少年はそう言って手を振ると、足早にその場から消えた。



俺はしばらくその顔を忘れられず、時間がギリギリになっているのに気付くまでその桜の前から動かずにいた。






「やぁ、やっぱり会ったね。」


次の日の朝。
またあいつと会った。


「俺に会いに来てくれたの?」

「…別に、いつも通るから、ついでに」


そう目をそらして言うと、図星なんだと笑われた。
その後、なんとも他愛ない話をして、昨日と同じように別れた。


その次の日も、そのまた次の日も、俺たちはあの桜の木の前で会い、少しの話をした。

俺にとって、その時間は貴重だったし、その時間が好きだった。



異変が起きはじめたのは、それから3日後ぐらいのことだった。


いつも通りの朝。
少し桜は散りはじめていたが、俺とあいつは、あの日から変わらずここで会っていた。

でも、その日の奴はどこか違かった。



「…おはよう。」


あいつは、桜の木に寄りかかってなんとか立っているという状態だった。
顔色もあまり良くなさげに見えた。


「…おい?どうしたんだ。具合でも、」

「大丈夫。」


大丈夫だから。
そう再度言うあいつに、俺は何も言うことができなかった。

そのあと、またいつも通り別れたが、あいつの異変は明らかだった。

いつも、桜を大切そうに扱うため触れることはほとんどない上、触れるとしてもとても慎重に触れる。
そんな奴が桜の木に寄り掛かり立つなどありえないことなのだ。


疑問に思いつつ、俺は明日になるのを待った。





異常は悪化していた。
翌日、あいつは確かにそこにいた。しかし、状態は明らかに悪化していて、寄り掛かるどころか木の根のあたりに座り込んでしまっていた。


「…おい、」

「あ、おはよう」

「なぁ、お前なんか具合悪いんだろ?帰ったほうが」

「いいの!」


初めて張り上げた大声。
その顔はひどく焦ったような、どこか悔しそうな。



「俺は…、ここにいたいんだ。この桜の木の前で…。」

「でも、」

「君にも、会いたかったんだ。」



その言葉を最後に、俺たちの会話はなく、気まずい空気の中、俺はその場をあとにした。


学校で授業をしていても、あいつの言葉や顔がちらついて集中できなかった。
なぜあんな顔をしたのか、俺にはわからなかった。








翌日、あいつはそこにいなかった。

いつもそこでおはようと声をかける奴は、どこにもいなかった。
嫌な予感が、俺を震わせた。


どこにも、いない。



桜は、もう散っていた。





次の日も、そのまた次の日も、さらにその次の日も、あいつが桜の木の前に戻ってくることはなかった。


あいつが桜の木の前から消えた日から、五日ぐらいが経ったある日のこと。

俺はその日も、桜の木の前にいた。



すっかり花の散った桜をぼーっと眺めていると、後ろから二人の少女に声を掛けられた。


「ねぇ、お兄さんがイザ兄と仲良くしてくれた人?」

「…は?」

「金髪の長身に青い制服。やっぱそうだよね。」


話の状況が飲み込めない俺に、自己紹介をする少女。


「黒髪の短ラン着たお兄さんと同じくらいの年の人がここにいたでしょ?私たちはその妹。」

「……初…」


二人とも軽くあいさつをすると、口を開こうとした。
しかし俺がそれを遮って聞いた。


「あのね、」

「あいつは、」


少女の顔が強ばるのがわかる。それでも俺は聞いた。


「あいつは、どうしたんだ。」

「…。」


二人の妹はだまりこんだ。
俺は必死になっていた。


「なぁ!」

「イザ兄は、」



――死んじゃったの。






「イザ兄は治ることは難しい病気にかかってた。20歳までは確実に生きられないって…。」


その後の話は、よく聞けていなかった。
あいつが死んだ。もうこの同じ世界にはいない。

頭が真っ白だった。



「でもね!これだけはちゃんと聞いてほしいの!」


俺を起こすかのように腕をつかむ少女。少女は、必死の表情で言い放った。


「イザ兄は、お兄さんのおかげで未練を残さず逝けたの!」




すう、と少女の瞳に吸い込まれそうになる。
今俺は、きっととんでもないアホ面をさらしているだろう。

でも、


「イザ兄言ってたの。本当に死んじゃう直前、お兄さんにありがとうって!イザ兄、やっと私達の前で笑ってくれたんだよ!?」



――だからね、お兄さん




――『ありがとう。』









その少女の姿が、一瞬あいつに見えて、

俺の目からは、情けなくもぼたぼたと涙があふれていた。




今更、気付いたんだ。



俺は、あいつが好きだったんだ―…。








何時間経ったのだろうか。
もうとっくに学校は始まっている時刻だった。


俺は涙が止まるまで、桜の木の前にいた。双子の妹たちは、いつの間にか消えていた。




あいつが俺に感謝していると聞いたとき、俺は少し安心した。
しかし、俺には大きな後悔が残っていた。

俺はあいつに、直接名前を聞くことが出来なかったのだ。


愛していたのに、それに気付かぬまま、名前を聞くことすらかなわずにあいつは俺から去ってしまった。
それは、意気地なしな俺の罪だ。



すっかり緑に溢れた桜の木を見上げ、目の前にはいないあいつに向けて、俺は誓った。



「毎年この桜が咲く頃、ここに会いに来るからよ。毎年毎年、手前を探しにここまで来るから、」



「だから、また必ずここに来いよ。」



――待ってるから。


















あれから、数年が経った。

俺は高校生から成人へと成長し、あの頃着ていた青いブレザーは、一際目立つバーテン服へと変わっていた。



あの誓いを立てた翌年から、俺は桜が咲き始める春に、あの桜の前に来ていた。

しかし、毎年毎年、あいつに似たような人間に会うことはなかった。



そして今年も、桜の咲く季節がやってきた。
俺は青みのかかったグラサンを掛け直し、あの桜の木へ向った。


あと何メートルかで桜の前に立つというところで、俺は一度立ち止まった。
先客がいたからだ。

そう、まるであいつと初めて出会った日のように。



思わず足が速まる。それと同時に心臓の鼓動もうるさいほど速くなる。


ついに先客の後ろに立った。

黒い長髪に、黒いセーラー服。
どことなく、あいつの妹のよく喋る方に似ている気がした。


俺は息をのんだ。
性別が違くとも、どこかあいつと同じ雰囲気を匂わせる。そんな人間が目の前にいたからだ。

俺が棒立ちしていると、少女はふいに後ろを振り向いた。



あいつと同じ、紅い目をしていた。


少女は俺を見て、少し驚いたあと僅かに目を細めて微笑みながら、言った。

あの頃の、あいつと同じように。






―――『おはよう。』






桜は、満開を迎えていた。



















*
はい!!
桜すっかり散ってしまいましたが、桜話でした!
珍しくちょい長めかな?こういう話、自分はすごく大好物です←

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